写真はイメージです。

職場での人間関係や、ふとした瞬間に感じたモヤモヤ。仕事が終わってからも、その出来事が頭の中でぐるぐると回り続け、休まらない夜を過ごしてはいないでしょうか。

特に責任ある立場や、長年キャリアを積んできた方ほど、感情を押し殺して「これくらいは我慢しなければ」と、心のなかにストレスを溜め込んでしまいがちです。

こうした脳の渋滞を解消する一つの手段として、心理学の知見に基づいた「エクスプレッシブ・ライティング(筆記開示)」という手法があります。

特別な道具は必要ありません。精神保健福祉士・産業カウンセラーの視点から、明日を少しだけ軽く迎えるための「脳のゴミ出し」習慣について詳しく解説します。

心理学が証明した「書く効果」

冒頭で述べた「エクスプレッシブ・ライティング」とは、自分の感情や思考をありのままに書き出す心理学的な手法を指します。書くというシンプルな行為がなぜ心の平穏を取り戻すのに有効なのか、それには脳の仕組みが大きく関係しています。

脳の空き容量を増やす「ワーキングメモリ」の解放

脳には情報を一時的に処理する「ワーキングメモリ」という領域があります。その容量には限りがあり、職場の悩みなどを頭の中で反芻し続けると、このメモリが占領され、冷静な判断や心の余裕を失ってしまいます。

書き出すことは、脳内にある重い荷物を一旦紙という別の場所に預ける作業に似ています。アウトプットすることで脳は、記憶にとどめておかなくていいと判断し、メモリに空きが生まれます。これが、書き終えた後に感じるスッキリ感の正体です。

感情を自分から切り離して眺める

自分の感情を文章にして紙に書き出すプロセスは、形のないモヤモヤを、自分から切り離して眺められる対象へと変化させます。

頭の中にあるうちは自分を苦しめる感情そのものだったものが、文字として外に出ることで、「今自分はこういうことに不安を感じているのだな」と一歩引いた視点で観察できるようになります。

心理学の研究でも、数分間の筆記を続けることで、ストレス軽減や睡眠の質の改善が見られることが報告されています。

デスクでできる3つのステップ

「エクスプレッシブ・ライティング」には、特別な準備は必要ありません。職場のデスクや移動中の隙間時間など、日常の中で手軽に行える実践方法をまとめました。

1.感情のままに紙へ書き出す

まずは紙とペンを用意し、ルールを気にせず心に浮かんだモヤモヤをありのままに書き出します。

腹が立った、悲しかった、不安だといった負の感情はもちろん、なぜそう感じたのかという背景も、思いつくまま文字にしていきます。他人に見せるものではないので、文法や誤字脱字、誰かに見られる不安などを一切気にする必要はありません。普段は口に出せないような激しい言葉が出てきても構いません。

2.数分間集中して書く手を止めない

最初は3分から5分程度で構いません。タイマーをセットして、その間は手を止めずに書き続けるのがコツです。もし書くことがなくなったら、書くことがない、という言葉で構いません。思いついたままを書いてください。

大切なのは、思考を途切れさせずに外へ出し続けることです。

3.書き終えた紙を処分する

書き終えた後は、その紙をシュレッダーにかけるか、細かく破り捨ててしまいましょう。物理的にゴミとして捨てる行為そのものが、脳のゴミを処分したという心理的な区切りになります。

自分の外に出した感情を、そのまま手放すイメージで行ってください。

具体例:あるベテラン会社員の体験から

ここでは、守秘義務に配慮し、複数の相談内容を統合・再構成したモデルケースをご紹介します。

長年、管理職として働いてきた50代の男性Aさんは、部下とのコミュニケーションや、組織内での自分の役割の変化に強いストレスを感じていました。夜、布団に入っても「あのとき、ああ言えばよかったのではないか」と後悔が止まらず、慢性的な寝不足が続いていました。

そこで、専門的な助言を受けてAさんが取り入れたのが脳のゴミ出しの習慣です。Aさんはまず、終業前の5分間、デスクで今の感情を紙に書き出すことにしました。「部下の態度に苛立ちを感じた」「自分は軽んじられているようで悲しかった」など、その日感じた本音を、ありのまま紙にぶつけました。

実践して1週間足らずで、Aさんに変化が現れました。書き出した文字を改めて眺めてみると、自分が同じようなことで何度も悩んでいたことが可視化され、少し客観的な気持ちになれたのです。

物理的に紙を捨てることで「今日の仕事はここまで」と心に区切りがつき、その日から夜の反芻も減少しました。結果として睡眠の質が改善し、以前よりも穏やかな気持ちで部下と接することができるようになったと言います。

解決しなくていい、出すだけでいい

「エクスプレッシブ・ライティング」の最も優れた点は、書いた内容に対して解決策を見つけなくてもよい、という点にあります。

人間は悩みが生じるとどうしても、どうにかしなければと答えを急いでしまいがちです。しかし、その焦りこそが脳のメモリを消費し、さらなるストレスを生む原因にもなります。

まずは、自分の内側にあるものを外に出すこと。それだけで、脳は休息への第一歩を踏み出せます。

忙しい毎日の中で、ほんの5分だけ自分自身のために紙に感情を書くという作業を行ってみてください。書き終えて紙を破り捨てたとき、あなたの心は、昨日よりも少しだけ軽くなっているはずです。

文・構成/藤野綾子
精神保健福祉士、産業カウンセラー、EAPメンタルヘルスカウンセラー、メンタルヘルス・マネジメント検定II種の資格を持つ。大学に通い直し、心理の国家資格取得に向けて勉強中。教育施設、就労移行施設などでカウンセラー研修、実務も続けている。

 

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