実にありがたいことに、人生をやり直せる時代になりました。人生百年時代となった今では、定年退職は、第二の人生のスタートのようにいわれています。そうは言っても「どこまでも続く人生」と思っていた、若き時とは違います。溢れる情報に惑わされず、巧妙で狡猾な罠を見破り、第二の人生を生きていきたいものです。しかし、自分だけの知識や経験だけでは心許ないところも。ならば、賢者の知恵を頼みとするのも一つの方法ではないでしょうか?

そうした賢者が残した一つの言葉を、ご紹介します。今回の座右の銘にしたい言葉は「先手必勝(せんてひっしょう)」 です。

目次
「先手必勝」の意味
「先手必勝」の由来
「先手必勝」を座右の銘としてスピーチするなら
最後に

「先手必勝」の意味

「先手必勝」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「勝負事で、先手を取れば必ず勝てる状況であること」とあります。チャンスを逃さず、いち早く行動を起こすことで勝利を手に入れる知恵。文字通り「先に手を打つ者が勝つ」という意味です。

スポーツやビジネスの世界でよく使われるイメージがありますが、私たちの日常生活においても、この「先手」を打つ場面は数多く存在します。例えば、健康診断を先延ばしにせず早めに受けておくこと、気になっていた趣味のサークルに思い切って見学の連絡をしてみること、あるいは家族への感謝を「いつか伝えよう」ではなく、今日伝えてみること。

これらはすべて、未来の自分にとって有利な状況を作り出すための「先手」といえるのではないでしょうか。問題が大きくなる前に手を打つ、好機を逃さないように準備をしておく。そうした主体的な姿勢こそが、「先手必勝」の本質なのです。

「先手必勝」の由来

この言葉の由来は、囲碁や将棋などの日本古来の遊戯にあります。将棋や囲碁では、交互に駒や石を置いていきますが、先に指す側を「先手」、後に指す側を「後手」と呼びます。特に囲碁の世界では、先に石を置ける「先手」が圧倒的に有利であると古くから考えられてきました。自分の描く陣地を先に作り始めることができるため、戦いの主導権を握りやすいからです。

この「先に動くものが有利である」という盤上の法則が、やがて勝負事全般、さらには人生における教訓として広く使われるようになり、「先手必勝」という言葉が定着していったのです。

面白いのは、この言葉が単なる精神論ではなく、ゲーム理論にも通じる合理的な戦略に基づいている点です。事が起こってから慌てて対応する「後手」に回るのではなく、常に先を見越し、自ら状況をコントロールしていく。こうした考え方は、予測困難な現代社会を生き抜く上でも、非常に重要な視点といえるでしょう。

「先手必勝」を座右の銘としてスピーチするなら

スピーチで「先手必勝」を紹介するときは、ただ言葉の意味を説明するだけでなく、自分の日常や経験に絡めて話すと説得力が増します。話し手自身がこの言葉の大切さを実感していることを伝えると、聞き手の共感を得やすくなります。以下に「先手必勝」を取り入れたスピーチの例をあげます。

小さな先手の重要性を語るスピーチ例

私の座右の銘は、「先手必勝」です。こう申しますと、「まだまだ血気盛んだな」と笑われてしまうかもしれませんね。もちろん、若い頃のように、仕事の競争で誰かを打ち負かしてやろう、などと考えているわけではございません。この歳になって私が思う「先手必勝」とは、少し意味合いが違います。

これまでの人生を振り返りますと、後になって「あの時、ああしておけば良かった」と悔やむことが、正直に申し上げて、一つや二つではございません。「いつかやろう」「そのうちやろう」と後回しにして、結局手つかずのままになってしまった事柄の、なんと多いことか。

人生も後半戦に入った今、残された時間は有限であると、ひしひしと感じます。だからこそ、これからは「後悔」という二文字を、一つでも減らしていきたい。そう強く思うようになりました。

気になっていた水彩画の教室に、思い切って電話をかけてみる。妻に「ありがとう」の一言を、照れずに伝えてみる。孫の運動会には、頼まれる前に「応援に行くよ」と声をかけてみる。私にとっての「先手」とは、そうした日々の小さな一歩です。

誰かと争って勝つのではなく、昨日までの自分に、そして自分の心の怠け癖に、ちょっとだけ打ち勝ってみる。そうして小さな「必勝」を積み重ねていくことが、これからの人生を豊かにしてくれるのではないか。そんな風に考えております。

最後に

人生経験を重ねた今だからこそ、「先手必勝」という言葉が胸に響きます。それは、他者との競争ではなく、自分自身の人生をより主体的に、そして豊かにするための、前向きな言葉だから。変化の激しい時代ですが、受け身で待つのではなく、自ら楽しみを見つけにいく「先手」の姿勢で、これからの日々を歩んでみてはいかがでしょうか。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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