求めないことも大切だった
不妊治療はまず検査から行った。女性の場合は月経周期に合わせる必要があるため、結果が出るのが男性のほうが早い。夫の結果は、基準値を下回り、自然妊娠は難しいというものだった。その後に、佳澄さんの結果が出て、佳澄さんにも排卵障害が見つかったという。
「結果を聞いて、夫はすぐに私に離婚を申し出てきました。いくら私が嫌と伝えても、聞き入れてくれなかったんです。
その後、私のほうにも妊娠が難しいと言われる原因が見つかりました。それが見つかったときに普通は悲しむものだと思うのですが、私は夫を引き止める理由ができたと思いました。私はすぐに夫に結果を伝え、『一緒だよ。一緒にいたい』と言いました」
夫婦は現在も一緒に生活をしていて、離婚はしていない。検査結果が出た後から再びレス状態になってしまったそうだが、スキンシップをする機会は増えたという。
「物理的な距離を失くそうと思い、私たち夫婦は引っ越しをしました。平米数は同じくらいなんですが、部屋の数は減らして1LDKに。寝室を一緒にしたんです。寝室を一緒にすると、自然と眠る前の会話をするようになり、どちらかに何かあると支える側が相手を抱きしめて眠るようになりました。そこから発展することはないけど、これだけでも満たされることがわかりました」
不妊は夫婦の問題ではあるが、不妊原因があるほうはないほうに負い目を感じてしまうことが多い。しかし、佳澄さん夫婦はお互いに原因があると分かり、どちらからともなく「よかった」と口にしていたという。1人で背負わなくていいという思いが、2人を家族にしたように感じた。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。
