両親に可愛がられている兄に嫉妬した

母親と美貴さんが移住したのは、以前の住まいの隣県にある祖母の家の近くのアパートだった。祖母の家には伯父家族が同居していたこともあり、祖母の家で暮らすことはなかった。その地域の幼稚園に入り、そのまま小、中、高校と進学する。その間、父親には一度も会わなかったという。

「すぐにその地域での暮らしにも慣れました。友だちもすぐできたし。父と兄がいないことも、意外とすんなりいないことを受け入れられました。母が仕事に行っている間は、祖母や伯父の家族が一緒にいてくれることが多かったので」

離れて暮らす兄は母親と電話で連絡を取り合っていて、美貴さんが小学生のときには3人で会ったこともあったという。父親と暮らし、母親と連絡を取り合えている兄を見て、美貴さんは嫉妬したと振り返る。

「母親と兄が電話をしていて、電話を途中で代わってもらって兄と話すような機会がありました。何を話したかは覚えていません。母と兄の連絡は、兄の誕生日や母の誕生日、母の日や子どもの日などにやりとりをしていたように記憶しています。母親が嬉しそうに『プレゼント届いた?』と電話で聞いている姿を覚えているので。

そんなやりとりをしている母親を見て、私は兄に嫉妬していました。私には父からの連絡もプレゼントも何もなくて、兄は両親から今も大切にされている。その嫉妬があって、母と兄の電話に参加するのをやめました。兄と仲良くしたくないと思っていたんです」

美貴さんが大学生のときに母親が再婚。その再婚をきっかけに美貴さんは一人暮らしを始める。家を出ることが決まったときに、父親からのお金を受け取ったという。

「父は離れて暮らしてからずっと私の誕生日などにお金を振り込んでくれていたんです。母親はその事実をずっと私に伝えず、ずっと貯めていたと言います。そのときに、母親は私と兄の2人ともを引き取るつもりだったが、兄が父親を選んだことを聞かされました。だから私が父親を選ばないように、父親を思い出さないように、お金のことを伝えなかったと。離婚が決まったとき、私はどちらと暮らしたいかと聞かれた記憶はないのですが、兄がそう答えたから私には聞けなかったのかな。そんな不器用な母親を見て、私は怒ることはできませんでした」

美貴さんは父親の連絡先を受け取り、父と娘は会うことになる。【~その2~に続きます】

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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