56歳のとき、写真教室で38歳の女性と親しくなる

直樹さんの意思とは反対に、雇用延長の道を選んだのは、57歳で出会った恋人の存在だ。きっかけは、親しい先輩から言われていた、「定年後は暇になるから、好きなことを探せ」というアドバイスだった。

「その先輩は奥さんが会社を経営しており、“カミさんに食わせてもらう”と会社を去りました。それから1年後、東京駅の本屋さんでばったり会った。先輩は結局やることがなく、ここで時間を潰していると言ったのです」

先輩は、「やりたかったこと、行きたかった旅も、やり尽くした。継続的にできることを探せ」と直樹さんに言った。さらに「本を読んでも仕事に活かせるから、読みがいもあった。“吐き出し先”がないと、人生つまらないんだよ」とぼやいたという。

「僕は仕事人間だったので、先輩と同じ道を辿る。そこで、前からやりたかった、登山やサーフィン、ギターなどのサークルに入りました。SNSも本格的に始め、なるべく若い人が多く、ヒントを得られるようなところを選んだのです」

直樹さんは、部活の経験もなく、インドア派だという。屋外で楽しむものはどれもハマらず、陶芸や金継ぎ教室まで足を運んだ。

「そこでわかったことは、僕はゼロから何かを生み出したり、技術を磨いたりすることに興味がない。そのことを大学時代の友人に話したら、スマホ写真教室に誘われました。そこで彼女に会ったのです」

彼女は食べ歩きが趣味で、食べ物の写真を上手に撮るために、教室に入った。最初の印象は「愛想がなくぶっきらぼう」だったという。

「教室はワークショップ型で、グループになってテーマを決めて写真を撮るので参加者同士が親しくなる。とはいえ、恋愛なんて全く考えませんでした。56歳のオジサンですし、僕はそちらにあまり興味がない。当時38歳の彼女も、明らかに恋愛に興味がない雰囲気でした」

話しているうちに、千葉県内の実家が近かったり、彼女も設計事務所で働いていて、共通点は多かった。

「打ち解けるうちに、彼女が食べ物の話を楽しそうにするので、“もし、よろしければ誘ってください。当日でも行きますよ”と言ってLINE交換したんです」

直樹さんは、営業職で培われた、紳士然とした佇まいがあり、相手を立てるコミュニケーションができる。LINEを交換したときの最初のメッセージの内容を見せてもらうと、そこには、教室名とフルネーム、「いつでもお声がけください」という文章があった。

「SNS時代、フルネームを明かすことは、“あなたを信頼している”という証になると思ったんです。彼女はそれに反応してくれました」

そのLINE交換の現場を見ていた直樹さんの友人が、「俺も交換したい」と言い出し、3人のグループができた。

「そのグループ内で、映画や読んだ本、飲んだ酒、見た風景、美味しい店などを共有するようになったのです。おしゃべり感覚のチャットっていいですね。1対1ではない気軽さがある」

そのうちに、彼女との距離が近くなっていったという。

【恋愛関係は彼女がリードして始まった……その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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