エリートだから、「会社が仕事を与えてくれる」という思い込み

繁之さんは、30歳のときに結婚しており、30代の息子がいる。

「友達と参加した合コンで知り合った人で、向こうが推してくるから、結婚したんです。あれよという間に息子ができて、全てを妻に任せていました。僕の仕事は転勤があるのですが、あるときから“息子の学校のためにも帯同しない”となって、単身赴任するようになったんです」

40歳で本社勤務になるという出世コースにも乗った。

「僕は、会社に言われたことを、その通りに、なんの滞りもなく進めることにかけては天才的だったんです。だから、課長的なポジション止まり。部長の指示がないと動けないことは、会社に見抜かれていました。でも、そのことには渦中にいると全く気づかない」

転機は55歳のときに受けた研修だった。

「役職定年というものはないのですが、53歳頃をピークに少しずつ給料が減っていく。それに気づいた55歳くらいのときに、課長クラスの人材が集められ、研修を受けた。いわゆる“たそがれ研修”ってやつです」

この研修を受けて、モチベーションが急落したという話はよく聞く。50代頭まで会社は「頑張れ、結果を出せ」と社員の尻を叩き続ける。しかし、定年が近くなると、「もう頑張らなくていい。仕事は後進に譲り、プライベートの活動に力を入れなさい」と言い始める。

「僕は金融関連に勤務していたから、友人関係やSNSでの発言制限などの不文律がたくさんありました。研修では、“自分とは異なる社会の人と積極的に交流し、SNSも大いに活用しましょう”などと言われ、“真逆やないか!”と心の中で叫びました」

繁之さんは、22歳で入社してから、30年間会社が「与えてくれる仕事」をこなしながら生きてきた。

「エリートだから、仕事が向こうから来ると思っていたんです。でも、それがあと数年のうちに無くなり、誰もが知っている自分の会社から捨てられることを実感しました。定年延長して働いている人もいますが、やはり部外者扱い。かつて、新卒がやっていた雑用や、派遣社員さんがやっていた事務仕事をこなすために通勤するのも辛い」

繁之さんが定年退職した4年前から、人手不足は深刻だった。

「仕事を任せられる人を採用できないから、一応、会社への忠誠心がある定年退職後の人材に任せているんでしょうね。一応、会社からは定年延長を打診されましたが、丁重にお断りしました」

【定年後の恐怖は、お金が目減りしていくこと……その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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