「長男を離婚させてください」と神に祈り続けた

長男の嫁が家族になったことで、穏やかな家庭は一変した。

「その後も、恨みを言いに家にくるんです。長男と嫁は昔の発言をいつまでも覚えており、“あのとき、あなたはこう言った”とか差別するような態度を取ったとか、以前から言っている。そのうちに、長男が来そうな土日は、旅行をするようになりました。一方、次男は“忘れ物王”なだけあり、昔のことはさっぱり覚えていない。次男の嫁もそうです。大人になると、なんでも忘れたほうが、人生はうまくいくんですよ」

他にも長男の嫁は、美和子さん夫妻の財産を狙うところもあったという。孫の顔を見せるという目的で、家に来るたびに少しずつ何かがなくなっているような気がしていたという。

「ものがたくさんあるから把握できないのだけれど、タンスの中の気配が少しずつ薄くなっている。さすがに“ウチに来ないでもらいたい”とやんわりと伝えたら、来なくなりました。その間もいろいろあって、夫と気晴らしに京都旅行に行ったんです。夫はそれまで神社に行きたいなんて言ったことがないのに、“安井金比羅宮に行きたい”と言う。縁切りで有名な神社なので、“今さら離婚なんて言わないでよ”と冗談で言ったら、“あなたじゃなくて、アヤツ(嫁)と息子の離婚だ”と。私たち夫婦が、離婚を願うようになるほど、追い詰められたんです」

その後、美和子さん夫婦は、縁切り神社を見つけてはお参りに行った。

「そのうち、夫にスキルス性の胃がんが見つかり、あっという間に亡くなってしまったんです。75歳でした。長男は顔を見せましたが、孫は来なかった。嫁が“ウチに来ないでほしい”と言ったことを根に持っていたんでしょうね。葬式にも来ませんでしたから」

そのうちに、長男は郊外に家を買い、疎遠になっていった。神への祈りも虚しく、長男は離婚することはなさそうだという。

「それでよかったんだと思えたのは、次男の嫁が42歳で妊娠したことです。命が誕生することは救いになるというか、“受け継ぐ相手ができた”という安心感は、得てみないとわからなかった幸せです。手がかかった分、本当の親孝行をしてくれたような気持ちです」

美和子さんは、以前、長男の子供を抱き、「私もおばあちゃんになった」という幸せを味わった。

「でも、あの嫁の子供だと思うと、孫を可愛いとは思えなかった。今になって、昔勤めていた会社の専務が言っていた“国も夫も私たちを守ってくれない。普段、どんなに尽くしても情け容赦なく責任を押し付けてくる。何かあったら逃げることを考えなさい”という言葉を思い出します。私も長男の嫁に尽くしたんですよ。欲しいと言うから着物もあげたし、ブランドバッグのヴィンテージ品もあげたのにね。それと同時に、嫁も私に対して“裏切られた”と思っているでしょうね。そういう関係になってしまうと、人間関係は終わります」

美和子さんが心配しているのは、長男の嫁が次男夫婦を攻撃することだという。すでに、長男の嫁は、次男の妻に対してSNS上でのストーキングをしているそうだ。

美和子さんは「結婚相手は、子供がどう思っても、違和感あったら断固拒否すべき。そうでないととんでもないことになる」と繰り返していた。直接的な関係はないかもしれないが、美和子さんは「夫ががんになったのは、あの嫁のせい。私たち夫婦は、あと5年は旅行ができたのに」と涙ぐんでいた。

いま、マッチングアプリや結婚相談所など、結婚産業が活況だ。それらは育った背景が異なる人と結婚する可能性もある。「親孝行のために結婚する」という人もいるが、美和子さんの話を聞いていると「親孝行のために結婚しない」という考え方もあるのではないかと思ってしまった。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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