「孝行のしたい時分に親はなし」という言葉がある。『大辞泉』(小学館)によると、親が生きているうちに孝行しておけばよかったと後悔することだという。親を旅行や食事に連れて行くことが親孝行だと言われているが、本当にそうなのだろうか。
2024年12月6日、JR東日本は運賃改定を国に申請したと発表。2026年3月から値上げになり、例えば山手線では、切符の初乗り運賃が150円から160円に値上げすることになるという。これは、普通運賃のほか、通学・通勤の定期も対象で、国で認可に向けた審査が行われ、認可されれば正式に決定する。
東京都内で一人暮らしをしている美和子さん(75歳)は「10円の値上げを、なんとも思わないか、家計に響くと思うか……この感覚が合わないと、家族になるのは難しい」と語る。
【これまでの経緯は前編で】
喫茶店やファミリーレストランで砂糖を持ち帰る
長男の嫁は苦労が“ひがみ”になる性格のようで、「お金があるところからは、なんでも持ってきていい」と考えているところがあった。
「ウチによく遊びにくると思ったら、ストックから、缶詰や油を持ち帰るんです。長男に言うと“結婚して家族なんだから、いいだろう?”と。結婚したら長男の服がどんどん見すぼらしくなっていく。襟や袖が毛羽だったシャツを着ており、買ってあげたこともありました」
孫が生まれるというので、ベビー用品を量販店に買いに行き、美和子さんが会計を支払う。喫茶店に行こうとすると、“ファストフードのほうが安いですよ”と言われた。
「それも美味しいのですが、でも私は、陶器のカップに入った、ネルドリップのコーヒーが飲みたかったんです。嫁は10円のお金を惜しむタイプ。700円のコーヒーなんて、言語道断だったんでしょうね」
嫁は妊娠中だったがコーヒーを頼み、代金を美和子さんに支払わせた。「お水と砂糖を3本ください」と店の人に言い、コーヒーはボトルに移し替え、砂糖は使わずにバッグの中に入れた。
「嫁は喫茶店やファミレスでもらった砂糖を持ち帰る。紙タオルやトイレットペーパーも失敬している。孫が生まれてベビーカーを見たら中古ですし、孫にかかっているブランケットは航空会社のタグがついていたから窃盗品だと思ってギョッとしてしまった。それを指摘すると、嫁は“フリーマーケットで買った”と答えていました」
嫁は「老後のために貯金したい」と1円単位で家計を切り詰めていた。
「節約が美徳というタイプなんです。“もちつもたれつ”という感覚が通用しない。そういう人が家族になると、徐々に家庭の空気が悪くなっていく。次男は長男よりも少し前に結婚しており、お正月になると長男夫妻と孫、次男夫妻が我が家で顔を合わせていました」
次男の嫁は、私立中学校からの同級生で、裕福な暮らしをしているお嬢様だという。
「大手企業に勤務しており、持っているものもいいものが多く、それとわからず着こなしている。それに長男の嫁が目をつけて、私が席を外しているところで、“うらやましい”、“要らなくなったらくださいよ”を繰り返していたんです」
長男が結婚3年目の正月、次男の嫁がやんわりと「うらやましいというけれど、私もまあまあ、もがいて生きていますよ」と釘を刺した。それを聞き、長男の嫁が反論する。
「お酒も入っていたからか、長男も便乗し、次男に対して“お前は親からも愛されて、何もかも不自由なく育っている”と殴りかかったんですよ。長男の嫁は“そうですよ。あなたたちが愛してあげないから、私が愛しているんです”と怒鳴り声をあげました。私なんか、人差し指を刺されつつ“お前は毒母だ!”と。“私が毒母ならあなたは毒嫁よ”と言いそうになりましたが、やめました。同じレベルまで下がりたくなかったんです。孫は泣くし、次男とその嫁もお酒が入って売り言葉に買い言葉で、罵り合い。近所の人が様子を見に来たことで我に返って、お開きになりました」
長男とその嫁は「金があるから偉いと思うな。お前たちが間違っている」と言い捨てて出ていった。
【夫は心労からがんになったのではないか……次のページに続きます】