親は娘の発達障害を認めなかった
子どもを出産してから、母親は由衣さん夫婦の家に定期的に遊びに来るなど干渉してくるようになった。しかし、母親の干渉の対象は由衣さんではなく、由衣さんの子ども。子どもの世話を焼くときには、いつも由衣さんの悪口を言ってきたという。
「『あんたに育てられたら、あんたみたいにバカになる』という言葉から始まり、娘が学校に通うようになると、『すでにあんたより賢い。あんたから教わるものはもうこの子にはない』といった言葉を浴びせられました。私はそれによってうつ症状が出てしまい、病院に行ったことがきっかけで発達障害だとわかったんです」
病院へは夫が毎回付き添ってくれた。由衣さんは発達障害と診断されたことで生きづらかった理由がわかり、ホッとしたという。夫は特性への理解をするために由衣さんの両親にそのことを伝えたが、両親は娘の事実を受け入れなかった。それが、由衣さんと両親が完全に決別するきっかけとなる。
「診断を受けて、みんなと同じようにできなかったことに対して、なんでできないんだと自分を追い詰める気持ちはなくなりました。そういう特性があるから仕方ないんだって思えて、心が軽くなりましたね。夫もそのことを受け入れてくれたのに、両親は『ちゃんと生活できているじゃない』と。散々私のことをおかしいと罵ってきた母親は、今さら私のことを普通だと言ったんです。そのときに私は母親に怒りをぶつけて泣き叫んでしまいました。興奮していて何を言ったかは覚えていないんですが、関係が完全に決別するような言葉だったと思います」
由衣さんはそこから両親とも兄とも一切連絡を取り合っていない。「なんの連絡もないから、死んではないと思う」と由衣さんはいう。
今は発達障害についての認知や支援も進んでいるが、その一方で子どもに普通を求めるあまりに支援を拒否する親も多いという。由衣さんの家は家族が有害であり、精神的虐待に耐えることでしか関係が保たれていなかった。一方が耐えるような関係であれば、それは最初からきちんとした親子関係がなかったに等しいだろう。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。