ビジネス的な視点を持ち込みすぎない

人とのつながりの課題のなかには、会社組織のようなビジネス的な共同体と、地域や教育分野の共同体とのギャップもあります。ビジネスと公共的な分野との活動ルールには大きな違いがあるのです。元会社員は、同じ地域活動でもお金や報酬につながるような活動であれば比較的スムースに移行できますが、社会貢献的な行為になればなるほどそのギャップは大きくなります。

私も、ビジネスの世界から教育分野に移ったので、当初はその違いにとまどうことがありました。会社組織では、経営者や社員の間に売上高や利益額の達成などの共通目標が存在します。それを基盤にして仕事を進めればそれほど困ることはありません。ところが、大学では各学生の考えていること、求めているものが多種多様でばらつきが大きいのです。そのため全体に語りかけても理解の仕方や反応は異なります。

私のモノマネをする学生がいて、大学に着任した頃は「みんなわかっているか。大丈夫か」というのが口癖だったそうです。自分では全く意識していませんでしたが、自分の意図が伝わっているかどうかを確認したかったのでしょう。

大学の教職員も、研究、教育、学校運営においてビジネスのように一致した行動や対応をするよりも多様性が求められています。私から見ると、サラリーマンというよりも個人事業主に近い印象です。

大学に慣れてくると教職員や学生間の相互の関係が本筋で、会社内の人間関係の方が特殊に思えてくるから不思議なものです。一時期、株式会社組織の学校が脚光を浴びたこともありましたが、それほど大きく発展していません。

そこで感じたのは、ビジネスの世界は組織本位、自分本位が優先だが、その考え方をそのまま教育や地域に持ち込むと失敗するだろうということです。優秀なビジネスパーソンほど、ビジネス的思考が強いので、そこは注意すべき点になります。

* * *

『75歳からの生き方ノート』(楠木新 著)
小学館

Amazonで商品詳細を見る

楠木新(くすのき・あらた)
1954年、神戸市生まれ。1979年、京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。人事・労務関係を中心に経営企画、支社長などを経験する。在職中から取材・執筆活動に取り組み、多数の著書を出版する。2015年、定年退職。2018年から4年間、神戸松蔭女子学院大学教授を務める。現在は、楠木ライフ&キャリア研究所代表として、新たな生き方や働き方の取材を続けながら、執筆などに励む。著書に、25万部超えの『定年後』『定年後のお金』『転身力』(以上、中公新書)、『人事部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)、『定年後の居場所』(朝日新書)、『自分が喜ぶように、働けばいい。』(東洋経済新報社)など多数。

1 2

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2024年
10月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

「特製サライのおせち三段重」予約開始!

小学館百貨店Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店