健康を過剰に意識するようになり、生活が一転
寝る時間よりも仕事や勉強を優先していた妻の生活は病気が発覚した後に一転した。睡眠時間の確保はもちろん、体にいいものを摂取して、仕事に充てていた時間をジムで体を動かす時間に変えるなど、健康的な生活になったという。外から見たら妻の日常は充実しているように見えたかもしれないが、伸一郎さんから見ると妻は楽しそうではなかったと振り返る。
「妻は運動が大嫌いでしたし、睡眠時間を確保するのはいいことだと思いますが、無理やりにでも眠ろうとしているように見えたんです。健康的な生活を無理にでもすることって健康的にどうなんですかね。ちっとも楽しそうじゃない毎日を送る妻を見るのは、私自身もしんどかったですね」
妻は親からの心配についても疲弊しているように見えたという。
「義両親からするとまだ30代の我が子ががんになってしまって、心配するのはわかるんです。しかし、妻の実家から私たちの家は新幹線を使っても3時間ほどかかる距離なのに、月に一度は妻の様子を見に来るようになりました。それに毎日『調子はどう?』という電話が来ていました。妻は『どれだけ健康的な生活を心がけても、周囲が私をいつまでも病気から切り離してくれない』と私に愚痴っていました」
それでも半年に一度の検診を1年、2年と無事に乗り越えていき、周囲も妻の容態を気にすることはなくなっていった。そのことで妻も病気がわかる前のように仕事にまい進するようになった。
「私はただ側にいるだけで何もできなくて、時間が解決してくれた感じです。私自身もがん治療の成果を表す代表的な指標の1つと言われる5年目の検診をパスできたことですっかり安心していました」
7年目の検診で再発を確認。妻は泣き崩れ、死の準備を少しずつ準備するようになった。【~その2~に続きます】
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。