抗うつ剤の服用を続けても不調は改善しなかった
家では妻に気を遣い、会社では周囲全員に気を遣っていた。それでも達二さんは自分の心配などはしていなかった。しかし、コロナ禍に入り、慣れないリモート環境での仕事によって睡眠障害が最初に起こり、そこから続く倦怠感、イライラ、ED症状、そして物忘れが続き、仕事に支障が出るようになったという。
「眠れないから疲れが取れない、だから注意力が散漫になってミスをしてしまい、そんな自分にイライラしていました。コロナ禍では妻も子どもも家にいるので、毎日顔を合わせている中でどんどん余裕がなくなっていきました。柔軟さがなくなった自分は妻から怒られ続けるようになったのです。
もう限界だと思ったとき、心療内科に駆け込みました。抗うつ薬剤を処方されたのですが、1年以上薬を続けてもあまり症状が改善しませんでした。その薬のせいなのか、ED症状が悪化してしまったので、心のケアを諦めて泌尿器科を受診したんです。そしたら、男性ホルモンの減少が関係している可能性があると伝えられました」
達二さんはそこからしばらくの間定期的にホルモンの補充療法を行ない、心身の不調は改善されていた。しかし、不調を隠しながら生活をしていた期間、抗うつ剤を服用していた期間に夫婦の仲はこじれてしまい、子育てに参加させてもらえない状態が続いているという。
「妻にはちゃんと男性の更年期障害だったと伝えたのですが、精神病を患った私が自分の父親と重なってしまったのか、私を避けるようになりました。今は何かを手伝おうとしていても、『大丈夫ですから』と敬語ですからね。人事部に移動になったことで辛いと感じていた職場のほうが、今は居心地がいいです」
女性の更年期障害にはパートナーは寄り添う姿勢が大事と言われ続けているが、それは男性が患った場合も同じなはず。今後、男性の更年期障害についても受診勧奨や治療に関する啓発が必要だろう。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。