交通機関を使えない義母の送り迎えは私の役目
親族を失った当事者同士で寄り添う体験をしたこと、今までとは新しい人との交流を増やしたことで義母は元気を取り戻していった。元のように戻るまで、義父が亡くなってから7年を要したという。
そんな中で義母は自分が立ち直った過程から心理学に興味を持ち、大学の公開講座や民間がやっているプログラムに参加するようになった。そのことについて最初はほほ笑ましく思っていた詩織さんだったが。
「義父がいた頃のように、元気に、意欲的になってくれたのは本当に嬉しかったです。夫からもとても感謝されました。病院で行われていたブリーフケアは月に2回ほどだったんですが、心理師の方と関わることで心理学に興味を持ったみたいでした。義母が自分で調べてきた講座やプログラムに参加するようになりました。
それは本当に嬉しかったのですが、ブリーフケアや手芸教室の送迎に合わせて、大学や民間のスクールに行くのも送り迎えを当たり前のように考えていたんです。毎週末や平日に祖母の送迎が入ることになり、私にはそれが負担になっていきました」
義母の家は交通の便が悪く、また、以前義父とは電車を使って旅行を楽しんでいたこともあり、電車など公共交通機関に乗ることで悲観的になることも多かった。それ故に詩織さんが車ですべての送迎を行っていた。
コロナ禍で一時はさまざまなものが制限され、オンライン学習に切り替わり、送迎の機会は減ったというが、今は大学の費用を詩織さん夫婦が一部援助しているという。
「子どもが今大学生でそれだけでもお金がかかるのに、それに加えて義母の学習費を一部ですが援助しています。義父は自営業だったので厚生年金ではなく、貯えだけでは不安なようなので。
お金のことをごちゃごちゃ言って意欲を失ってもらいたくなくて、義母からしたら心の底から私は応援しているように見えていると思います」
国は社会人の学び直しを推進している。高齢者の生涯学習の目的は、生きがいを持つことで、心身ともに健康の保持増進が可能となり、介護予防にもつながることが期待されるとなっている(文部科学省「長寿社会における生涯学習の在り方について(素案)」より)。介護予防は周囲の人の負担を減らすことが目的の1つだが、詩織さん夫婦のように別のところで負担を抱えている人も多いのかもしれない。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。