友達から「風呂で働きなよ」と言われる

娘が歌舞伎町のホストクラブに足を踏み入れてから、8か月間で300万円も使ってしまった。

「貯金の100万円はとっくに消えて、消費者金融から100万円を借りていました。そして、店にツケていたお金100万円をを支払わねばならなくなった。娘はホストからも“払えよ!”と責められていたそうですが、私たちにはずっと隠していたんです。あるとき、どうにもならなくなり友達に相談したら、“パパ活をするのもいいけど、ヤバいおぢ(おじさんの略)もいるから、お風呂が安全だよ。デリは稼げないからお風呂で働きなよ。100万円なんてすぐだよ”と言われたそうなんです」

デリはとはデリバリーヘルスの略で、客の望む場所に行き、性的な行為を行う仕事を指す。お風呂とはソープランドのことで、性行為を伴うサービスを提供することが特徴だ。疑似恋愛と売春行為を伴う可能性があるパパ活や、街娼になるにはリスクが高い。いざというときに守ってくれる人も必要だ。

「それを聞いて、娘は青ざめた。そこまでは踏み切れないと思ったのか、私たちに相談したんです。パパはみるみる真っ青になっていき、“なんてことをしてくれたんだ”と。娘を性産業に従事させるわけにはいかないので、なけなしの定期を解約しました。娘のことは信じられないので、パパが払いに行き、店から受領書ももらったそうです」

消費者金融の借金も完済した。娘は「ごめんなさい」としおらしくしていた。

「でも、そんな思いをしても、人間は習慣の奴隷というか、夜になると家を出ようとするんです。言葉で諭していたんですが、ある時娘が2階から脱出しようとしたんです。そのときに、パパが娘を追いかけて、髪をつかんでビンタをしたんです」

28歳の娘の頬を、62歳の父親が張る……蝶よ花よと育て、一度も手を上げていなかった父から叩かれた痛みは、どのようなものだったのだろうか。

「パパはその瞬間のことを全く覚えていないんです。自分が暴力を振るう人間だと受け入れたくない思いもあるのか、それから2日間寝込んでいました。ただ、“ここで娘を出したら、この子の人生が終わってしまう”という強い思いがあったみたい」

それが娘の目を醒ますきっかけになったのではないかと、妙子さんは振り返る。

「娘はふてくされて帰宅し、その後もパパは娘を徹底的に無視したんです。私だったらそんな厳しいことはできません。パパは娘のことをホントにかわいがっているのに、厳しくするってすごく大変だったと思う。そんな状態が1週間も続いた後、娘の方から“パパ、ごめんなさい”って謝って来たんです」

その後も、夫は毅然とした態度をとり続け、ビンタから1か月後に娘に気持ちを語らせたという。なぜ、ホストクラブに行くようになり、どうしてハマってしまったのか。今はどう思うのかを2時間以上かけて話し合ったという。

「部下を詰める上司みたいな感じでした(笑)。自分の気持ちを言葉にして、恥ずかしさと向き合ったからか、娘の顔についていた憑き物のようなものが落ちていきました」

依存は簡単には手放せない。信頼関係が養われた人と、話し合いながら、時間をかけて日常に戻していくことが大切なのかもしれない。

妙子さんは、娘のホスト経験を語りながら、「娘がホストにハマるように、私も娘に“課金”していたかもしれません」と言った。

いま、夫と妙子さんの貯金は、合わせて200万円もない。老後貧困は目に見えているという。だからこそ、今から働いて、貯えていく計画だが、それはどちらか病気になったり、夫が早くに亡くなり、年金が遺族年金に切り替われば、さらに生活は苦しくなるのは目に見えているし、働くにも限度はある。

今後、すべて親がかりだった妙子さんの娘が、この一件を機にどう変わっていくか……そこに希望を見出すしかないのかもしれない。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などに寄稿している。

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