一人暮らし、そして上京。会えないという物理的な距離が、家族との時間の大切さを再確認させた
そんな生活を続けることに体の限界がきて、大阪で1人暮らしを始めます。その時から家族の会話は徐々に増えていったとか。
「初めての一人暮らしは想像以上に寂しくて、当たり前ですが、自分が買わないと家にまったく食べるものがなくなったりする。そのほかにも洗濯など、すべて自分でしなければいけないことの多さに親のありがたみを実感しました。それに親と会うのに理由がいるようになるんですよね。『地元の友達と遊ぶからそっちに泊まる』とか、理由を無理やり作っていました。それに、父親を野球に私から誘っていくようになりましたね。社会人になった頃には父親は転職していて、家族席はなかったので、チケット代はすべて私が負担して、帰りはたまに2人で飲みに行ったりしましたね」
陵子さんは3年間大阪で働き、転職で上京を決意します。東京へ行く1週間前に家族3人で旅行に出かけたそうです。
「父親がずっと行きたがっていた京都の老舗旅館に両親を招待しました。兄は自腹なら一緒に来てもいいと伝えたら嫌がったので(笑)。旅行を決めたのは、実家まで1時間の距離が新幹線でも3時間かかる距離になり、前みたいに会えなくなると思ったからです。どこかで、子供が1人暮らしをしてから親と過ごす時間は2年にも満たないという記事を読んだんです。そのことが妙に心に残っていて、思い出を作りたかったんです。旅館ではカニが食べ放題で父親は吐く1歩前まで笑顔で食べ続けていましたよ。すごく喜んでくれました」
陵子さんは現在も東京で働く中、年に3~5回は実家に帰省し、数か月前には両親と一緒に野球観戦をしてきたと言います。そんな彼女の仕事はスポーツ雑誌。父親の影響からスポーツが大好きになり、仕事にしてしまったそう。「スポーツ誌のクレジットに私の名前が載っていることを父はみんなに自慢しているようです。少し恥ずかしいですが、嬉しいですね。少しは親孝行できたかなと思っています」と陵子さんは笑顔で語ります。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。