
取材・文/沢木文
結婚25年の銀婚式を迎えるころに、夫にとって妻は“自分の分身”になっている。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻の秘密を知り、“それまでの”妻との別れを経験した男性にインタビューし、彼らの悲しみの本質をひも解いていく。
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広司さん(仮名・61歳・会社役員)の年下の妻は、去年の夏、結婚30年目に59歳で亡くなった。あれから1年、家の中には妻の気配がいつもしており、「いつ帰ってくるのかな」と錯覚することがあるという。
「妻とは友人の紹介で出会いました。当時、私は鉱山関係の仕事をしており、調査のために国内外を駆けずり回っていました。“24時間戦えますか”と言われる少し前のことです。あの頃は、世の中が上向きで、会社と従業員の結びつきが強かった。女子社員と結婚をすすめる上司もいたんですが、どうもピンとこなかったんです」
そんなときに妻と出った。妻は、理系の大学を卒業後、総合職として大手企業に採用され、仕事街道を邁進していたという。
「当時、女性は若くてかわいくて、従順な方がいいという価値観でした。でも私は、仕事をしている母の背中を見て育ったこともあり、“寿退社をする”“婚約指輪は給料の3か月分”などという女性が苦手だったんです。友人には変わっていると言われました」
“いいところ”の会社に勤務し、性格も穏やかでハンサムな広司さんには降るように縁談があっただろう。
「いろんな人をすすめられましたよ。親会社の専務の親戚、常務の娘などを押し付けられそうになったことも。人並みに女性とも付き合いましたが、僕の煮え切らない態度にみんな怒っていなくなる。そんなときに、妻を紹介されたのです」
紹介した友人は「すごい変な奴。気も強いし、トウも立っている。会ってがっかりすると思うよ」と言った。妻を最初に見たとき、男性だと思ったという。
【少年のようにほっそりした体に、漂う色香……次のページに続きます】











