長野県中野市で5月25日に発生した、立てこもり事件の全容が明るみになって来た。警察官を含む4人の命を奪った30代の男は、地元の名士の息子だった。両親が「息子のために」と尽力してきた経緯を伝える報道が目立つ。

キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは、「地方に住む親御さんから、息子……特に長男の素行調査の依頼は以前から多いです」と語る。今回の依頼者・信也さん(60歳)は、甲信越地方で代々商店を営んでいる。長男(27歳)の素行について調査を依頼してきた。

「蝶よ花よ」と育てられた待望の長男

信也さんは堅実と責任感を絵で描いたような雰囲気の男性です。すっかり温かくなっているのにグレーのジャケットにフォーマルなパンツを合わせて、マスクは2重重ねをしています。

私達のカウンセリングルームに着くと、「感染が心配ですので」と窓を開けていました。地元の銘菓というお菓子の包みを、目の前で手を消毒してから出してくださったのです。

「お恥ずかしい話なのですが、不肖の長男について調べていただきたいのです」と語り始めました。調査の目的は、息子を東京から地元に連れ戻すことだと言います。

「お店がもう、どうにもならない状態で、息子が戻って来てくれないことには事態の収拾がつかないのです」と言います。その話を伺い、従業員が何人もいる企業を想像したのですが、実態は夫婦で経営する小さなお米屋さんでした。まずは、高額な調査費をかけてまで連れ戻す理由について伺いました。

「まあ、私のお店というのは、妻の家が江戸時代より前から地元で営んでいるのです。代々、長男が受け継いできましたが、義父と義母の間には、娘しか産まれませんでした。そのせいで、長女である妻の母は離婚させられ、後妻さんが来たのですが、この人も娘しか産まず、先日亡くなりました」

信也さんは妻の高校の同級生でした。高校時代から妻は「私が家を継がなくては」と強い責任感を持っており、信也さんと交際するにあたっても「婿に入ってくれる人でないと付き合えない」と言っていたとか。

「私は妻のことが好きだったので、そのまま交際を続け、25歳のときに婿に入りました。長女、次女と生まれ、33歳のときに長男が生まれたときは、親戚一同大喝采。息子が産まれたことは嬉しかったのですが、お役目を果たした安堵感のほうが大きかったです」

息子は蝶よ花よと育てられたそうです。

「当時はネットもなく、お店は繁盛していました。義父も生きており、“この子が成人した暁には、●代目〇〇〇〇を襲名させる”と意気込んでいたのです」

〇〇〇〇とは、代々、その家の当主が受け継いできた名前で、昭和の半ばごろまでは、家庭裁判所に行き、戸籍の名前まで変えてしまう商店などもあったそうです。信也さんにもその話はあったのですが「血が違う」と反対に遭ったそう。お話を伺っていると、人権意識が希薄だった時代の歴史を思い出してしまいました。

【「よそ者はなっていない」と思われるのが嫌だ……次のページに続きます】

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