誰も頼れない状況に一番苦しむのは、母親ではなく子ども
奈々さんは母親に、夫への悪口を聞くのが辛いことを素直に伝えたという。その言葉に腹を立てた母親と、結果的に距離を置くことになった。しかし、奈々さんの父親の急逝によって、母親との距離がまた変化してしまう。
「夫への悪口を注意したら、私が口ごたえするのが初めてだったこともあり、『あの人と結婚したことによって娘が変わってしまった』と怒りの矛先が夫に行ってしまって……。私も『夫のほうが大切』と言ってしまったから、そこで母親との関係はスパッと途切れました。父親とはその後に連絡を取り合って、『(母親のことは)気にしなくていい』と言ってくれてはいたんですが。
そこから半年ほどして、父親の病気がわかり、その9か月後には治療の甲斐もむなしく、亡くなってしまいました。入院先へのお見舞いで母親と顔を合わすこともあって、前のように言葉を交わすようになってはいました。父が亡くなってからは、兄と母親との間に入って、ただ穏やかに父親を送ることだけに注力しました」
現在、母親は実家で一人暮らしを続けているが、家族だけでなく他人にも自分ルールを強いるところもあって、友人はいない。理解者だった父親も亡くなり、兄とも和解することなく連絡は取っておらず、唯一のつながりは奈々さんだけ。奈々さんは定期的に様子を見に行っているというが、母親のマイルールは相変わらずだという。
「夫に了解を取って母親の様子を見に行っているのですが、夫は一緒には来てくれません。母親も私の子どもに対して体重を聞いてくるなど相変わらずで。まぁ父親がいなくなっても相変わらず実家はピカピカで自分でちゃんとできているようで安心しているのですが、もし母親に何かあってそれができなくなったらと考えると……。親族の私でさえそんな母親の世話をできる自信がないのに、他人に任せることもできるわけがない。未来が不安で仕方ないです」
子どもには親に対して、法律上の「介護義務」はないが、「扶養義務」は存在する。“扶養”は経済的な支援がメインとなる。奈々さんは介護も含め、“母親が”暮らしやすい老後を自分のことよりも優先しているように見える。一人で生活できなくなった親に対して何のサービスも利用させなかったりすればそれは放棄になってしまうが、「母親の世話は他人では難しい」と親メインで考えるのではなく、自分メインで楽な方法を考えるのは決して悪いことではないはずだ。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。