取材・文/柿川鮎子

愛玩動物看護師法により、今後、動物の看護師を名乗るためには、国家資格が必要となる。今年3月に第1回国家試験の合格発表があり、1万8481名の愛玩動物看護師が4月から動物病院などで活躍する。

国家資格により、これまで獣医師しか行えなかった診療補助行為(採血、経口による投薬、マイクロチップ挿入、カテーテルによる採尿など)ができるようになる。今回は横浜市にある「ながつたペットクリニックbyアニホック」の愛玩動物看護師の豊永明里さんに国試の内容や飼い主さんへのより良い診療の受け方などを聞いてみた。

国試対策はネットが中心で意外な出題も

――まずは、ご経歴を教えてください。

豊永さん もともと犬が大好きだったので、ペットに関係する仕事をしたいと思い、高校を卒業後、国際動物専門学校に入学して2018年に卒業後、ながつたペットクリニックに勤務しました。今年で6年目になります。現在は4名の獣医師と看護師3名で勤務しています。少人数ですがアットホームな感じの病院です。

国家資格を取得した理由は、将来的にもずっと動物病院で働きたいと思ったので。何らかの都合で職場を離れても、資格があれば戻りやすいと考えました。専門学校にいた頃からすでに資格制度ができることは話題になっていました。資格取得のために試験が必要であれば受験しようと考えていました。

――見事に一発合格されましたが、国試対策について教えてください。

豊永さん オンラインの対策セミナーや、インターネットで調べて、対策を紹介していた獣医師のサイトなどで勉強しました。参考書などは特に購入していません。

具体的な勉強の仕方ですが、サイトで出された問題を解いて、自分自身がわからなかったところを調べる形で進めました。YouTubeチャンネルでも国試対策の動画があり、調べたい内容をすぐに検索できました。

写真はイメージです

ただ、前例がなく、最初の試験で、過去問が全く無かったのは不安ではありました。実際に受けてみると、予想していたのとは少しジャンルや傾向が違うと感じました。

出された問題がとても難しかったというわけではないのですが、「こんな問題が出るんだ!?」と感じた出題も。もちろんこれは私個人の感覚なのですが、動物愛護についてや、小動物臨床ではあまり接点のない牛について出題が多かったのは意外でした。細胞の働きなど、形態機能についての出題が多いのではないかと予想していたので。

今回、無事に試験に合格できたので、今後は書類や登録費用を納め、受理された後、正式な愛玩動物看護師となります。

国家資格になってから、仕事の内容についてどう変わっていくかですが、先生方から少しずつ採血などを練習させていただいています。こうした医療行為に関しても、先生のサポートをこれまで以上にできるよう、期待に添えるように頑張りたいと思います。

分刻みの激務・看護師さんの仕事

――現在のタイムスケジュールは?

豊永さん 9時半に出勤してすぐに掃除や、入院患者さんがいたらそのお世話をして、パソコンを立ち上げ、レジの準備、カルテの整理、検査機器などをチェックして、すぐに使えるように準備します。

10時に病院をオープンしたら、診察の手伝いと、受付、会計業務を行います。診察の補助では主に保定(動物を治療する際に、動かないようおさえておく事)など、先生に呼ばれた時は診察室でサポートに入ります。登録が完了して正式に愛玩動物看護師となったら、採血など、もっと先生方へのサポートができるようになると思います。

13〜15時はいったん病院をクローズします。そこで交代で1時間の昼休みを取ります。この時間帯は手術が多いので、その準備や補助をします。

15~18時は診察時間なので、飼い主さんを受け入れて、午前中と同じような業務を行い、18時に病院を閉めた後は、診察料金の集計をします。また、狂犬病の手続きや、病院で使う薬などの在庫管理をして、欠品があれば注文します。18時半に終業で帰宅するという毎日です。

――どんな点にやりがいを感じますか?

豊永さん もともと犬が大好きでペットの看護師になろうと思ったので、元気になって帰る子たちを見ると本当に嬉しいです。病院がホームセンターの中にあるので、よく飼い主さん達が元気になった愛犬を連れてお買い物に来られます。顔を憶えてくださった飼い主さんから、話しかけていただけるので、やりがいがあります。

麻酔のモニターなどスキルアップも目指す

豊永さん 飼い主さん達からは、先生に相談するにはちょっと、というような軽い内容の相談を気軽にしてくださるので、そこもやりがいを感じます。こうした会話を通じて病気や健康に関するアドバイスができるのもありがたいことだと思います。そのためにもいろいろ答えられるようにスキルアップしていきたいです。

病院に入ってすぐの頃は、ベテランの先輩看護師さんからいろいろ教えてもらっていました。学校で勉強しても、実際に働くと全然わからないことが多く、私はまず保定の練習からスタートしました。国試を受けて、ようやく知識の整理もできて、後輩の指導ができる立場になりました。

国家資格の登録が完了後は採血や点滴なども正式にできるようになり、先生のサポートをもっとやりたいです。最近は、麻酔のモニターを正確に見ることができるようになりたいと考えています。

また、これまでは検査の補助だけでしたが、これからは先生が検査の数字の何を見ているか、もう少しきちんと理解できるようになりたいです。血液検査の結果などは、飼い主さんの質問に答えられるよう、ある程度でしたら勉強しているのですが、それ以外の、例えば心臓のエコー検査で先生が何を計測しているか、計測結果で数字が出てどの程度悪いのかといったところを、もっと勉強したい。飼い主さんから質問された時、検査の数値を基に、これまで以上に正しく答えることができたらと思います。

特に飼主さんの質問に対して、「なぜこうした治療が必要なのか」「この治療は何のためにやっているのか」を、きちんと正しく伝えたい。大切な愛犬がどういう病気の状態か、飼主さんに理解していただけるようにしたいし、理解していれば、急変した時なども素早く対応出来ると考えています。

飼い主さんから頼られる存在

――飼主さんとの接点が多い看護師さんですが、基本的に飼主さんとはどんな風にコミュニケーションをとっていますか?

豊永さん 心掛けているのは、「良いコミュニケーションをとること」ですが、私は子どもの頃から人見知りするタイプなので、入社した当初は飼い主さんとしっかりお話ができませんでした。

当時の院長からは、愛犬の様子をただ「今日はどうしましたか?」と、漠然と聞くのではなく、「昨日からの体調はどうですか?」や「今朝はご飯を食べましたか?」というように、具体的に詳しく聞いた方が良いと教えられたので、そのようにしています。

来院された時のコミュニケーションを大切にしているだけでなく、薬をちょっと取りに来ただけでも、「最近は体調どうですか?」という風に、きちんと愛犬の様子を気にかけている点を伝えています。飼い主さんには「愛犬がいつも元気でいて欲しいという病院スタッフ全員の思い」を伝え、病気の時はいつも気にかけているという気持ちを伝えています。

そうやってこちらからの働きかけから、飼主さんへの信頼度が増すのではないかと思います。それによってコミュニケーションがよりスムーズに行えるようになりましたし、病院スタッフの名前を憶えていただけるようになっています。

――飼い主さんに言われて嬉しいことは?

豊永さん いつも治療や検査で来院されてきた子たちに嫌なことばかりしていて、嫌われがちなので、飼主さんから「うちの子は看護師さんのことが大好きなんですよ」と言われると最高に嬉しいですね。

私が病院に入社して6年目なので、入社当時から来院されていた子が、年齢を重ねて老衰で亡くなるケースも増えてきています。顔なじみの飼い主さんから訃報を伝えられると落ち込みますが、「これまでうちの子がいろいろお世話になりました」と言われると、悲しい気持ちと同時に、愛犬の幸せを感じられて、温かい気持ちにもなります。現場ではいろいろありますが、この仕事をしていて良かったなと思います。

――困った飼い主さんとはどんな人ですか?

豊永さん うちの病院では困った飼い主さんはほとんどいません。だからこそ、待ち時間が長くて、飼主さんに迷惑をかけているのではないか、と思うと心苦しいです。診察日によっては、先生の人数が減る日があるため、長時間、お待たせしてしまいます。また、たまに急患が来院されたりすると、待ち時間が長くなってしまいますが、皆さん協力してくださるので感謝しています。

最近、当院ではLINEでご自宅から診察の事前受付ができるようになりました。混雑状況の緩和にも役立っているので、スマホを持っていたらぜひ利用して欲しいです。

メモはよりよい診察を受けるためにも便利

――良い診察の受け方など、飼い主さんへアドバイスはありますか?

豊永さん 助かるなと思うのは、昔から通ってくれる飼い主さんで、今日欲しい薬や診察内容をメモで渡してくださる方がいらっしゃいます。そのまま先生に見せて判断できるので、とても便利で良いなと思います。

薬だけ処方して欲しい時も、メモがあれば便利です。すぐに確認できるし、正確で間違いなく処方できます。

診察で時間を取るのは問診です。的確な問診はとても重要なのですが、飼い主さんも焦って気持ちがいっぱいで、的確に伝えるのは難しいことが多いです。そんな時は前もってメモで整理しながらお話しされたり、書いたメモを渡していただけたら、正確な問診ができるようになります。

――ありがとうございました。

◇ ◇ ◇

ペットの看護師になるための国家資格が普及して、看護師による医療サポートが進めば、獣医師の負担が軽くなるだけでなく、飼い主が受けることができる医療サービスの質的向上にもつながる。獣医師が本来行うべき診断や診察に、より時間をかけることができるようになるからだ。獣医療の担い手として、これからも活躍を期待したい。

ながつたペットクリニックbyアニホック(株式会社TYL運営)(https://anihoc.com/hospitals/nagatsuta/
神奈川県横浜市緑区長津田みなみ台4-6-1
スーパービバホーム長津田店内
看護師 豊永明里さん 統一認定動物看護師、愛玩動物看護師(現在登録中)

取材・文/柿川鮎子 明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

 

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