優しく花が好きで、穏やかな彼氏

直美さんが一人暮らしを続けられたのは、5歳年下の弟がいたから。消防士をしていた弟は20歳で高校の同級生と結婚し、立て続けに3人も子供をつくったのだという。

「親は私を結婚させたかったみたいですけれど、甥と姪が隠れ蓑になって、のびのびと仕事をしていました」

40歳のときに、都内に1DKのマンションを買い、年に1~2回は親しい友達と海外旅行へ。年に1回は母と温泉旅行に行き、会社の福利厚生でたくさんの習い事をする。好きな仕事をしているからかストレスもなく、名前の付いた病気をしたことがないという。

「60歳で定年になったときに、ぷっつりと社会との縁が切れたというか……コロナもあって、うつっぽくなってしまったんです。そのときに、初めてSNSをやってみました。すると、高校の同級生、甥や姪、昔縁が切れた友達など山ほどいて、1年間はSNSに夢中になっていました」

SNSのマナーや危険性などは、30代の姪が教えてくれたという。重要なのは住んでいる所を明かさないこと。他人の行動に否定的な意見を言わないこと。これ見よがしな自慢をしないこと。自分の境遇を嘆かないことだと言った。

「あとは、“ちょっと自慢したいこと”だけを投稿しろと言われました。そんな“社交”を続けているうちに、“定年お茶会”(グループ名)に行きついたんです」

これは、60代で定年した都内近郊に住む10人ほどの男女が、月に1回、都心の安価なカフェに集まりおしゃべりをするというもの。14時から18時まで開催しており、出入りも自由だという。

「SNS上のグループのメンバーは20人ほど。投稿の内容やコメントで“いいな”と思う男性がおり、その人に会ってみたいと思ったんです。実際に行ってみると、その日は私以外、全員男性でした。主催者は鉄道会社で労働組合をやっていたという穏やかな男性で、元勤務医、元バスの運転手さんなどいろんな仕事をしていた人がいました」

彼らの共通点は、百貨店でモノを買わないこと。

「皆さん、女性に対して、物腰が柔らかくてフラットなんです。それから、月1回のお茶会が楽しみになりました」

そこで、人生で初めての恋人ができる。SNSでもいいなと思っていた男性・昭雄さんだ。

「彼は有名なレストランの接客係をしていたそうです。共通のお客様もおり、結婚歴はなく、クリスチャンで、とても穏やかで優しい人。小柄で歯がキレイで優しくて。道端の花を見て、季節の移り変わりを指摘したり、私のネイルの色をほめてくれたり……自然に距離が縮まって、出会いから半年後に男女の仲になりました」

【定年後の穏やかな恋愛をかき乱したのは、女友達だった……その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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