2023年2月、警察庁は「オレオレ詐欺」など特殊詐欺の被害額が361億4千万円(2022年度・暫定値)で、前年を28・2%上回り8年ぶりに増加したことを発表。
手口は狡猾化をしており、そのうちのひとつが恋心を利用した「ロマンス詐欺」とも言われている。記憶に新しいのは、2021年に大阪府で発覚した「パパ活3億円詐欺事件」だ。実行役の元看護士の女(28歳)と指示役の男(51歳)が結託し、17人の50~70代の男性をマッチングアプリで篭絡。1年余りで総額約3億2千万円をだまし取った。
今回の依頼者は、会社員の尚子さん(44歳)だ。「母が亡くなって気落ちしている父(70歳)に、私の息子(20歳)がマッチングアプリを教えたんです。それから父がおかしくなって」と、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんのもとに来た。
コロナのせいで母の死の心の傷が癒えない
尚子さんはシングルマザーです。5年前に離婚し、息子(20歳)と娘(15歳)とともに、今は父と4人で都内の実家で暮らしています。まずは父について伺いました。
「父は北陸地方出身で、すごくまじめな人なんです。県立のトップ高校を卒業し、国立大学に入学。隣にある女子大に通う母と学生結婚しました。母と父はこちらがびっくりするくらいの相思相愛で、2年前に母ががんで亡くなるまで、いつも一緒だったんです」
両親は2人の娘の前でも「愛している」と言い、家庭内ではお互いに「〇〇さん」と相手を呼んでいたと言います。ケンカしているところは見たこともなく、お互いにワインとゴルフが趣味だったとか。
「父は大手企業に勤務しており、系列会社の社長になったんです。長年、父を支えてくれた母のために、山梨に別荘を建てたのですが、数回も通わないうちに母にがんが発覚。気付いた時はステージ4で、転移も進んでおり、余命宣告もされました」
母は延命治療をせず、自宅で看取られることを希望しました。残された時間、2人で旅行をしようと計画を立てていたときにコロナ禍が襲います。
「父はホントに落胆していました。母は最期まで“お父さんがいるから幸せなの”と言っていましたが、訪問看護の先生がコロナのせいで来られなくなったんです。父はそれに動転し、母は“家でいい”というのに、“信子さん(母)に何かがあったらどうする”と強引に病院に入れてしまったんです」
母は死を確信していたが、父は生きると思っていたのです。しかし、母はその1週間後、病院で息を引き取ります。当時はコロナ禍真っ只中。母の亡骸はそのまま荼毘に付され、骨壺だけが無言の帰宅をしたそうです。
「あのときの父は見ていられないくらい落ち込んで、体重も10キロくらい痩せていました。そのまま母の後を追うんじゃないかと思ったほどです。お葬式ができないって、本当につらいですね。改めて、お葬式は生きている人のために行うことだと感じました。グリーフケア(大切な人の死を受け入れ、悲しみから立ち直れるように支援すること)が全くできない。だって、母の遺体の顔を見ていないから、この世にいないというのが、実感としてつかめないのです」
【チャラ男の長男が、父にマッチングアプリを教える……次のページに続きます】