息子が無断で会社を辞めていた
最初の1か月は、保育園の送りは息子が、迎えは洋子さんがと役割分担をしながら育てていたが、次第に息子は家に帰ってこなくなった。
「家にお金を入れなさいと言い続けたことが負担だったのかもしれません。次第に家に帰らなくなり、老年と言われる私が子育てをするのは、地獄ですよ。自分一人なら、食事なんてほとんど作らなくていいし、洗濯機を回すのも週に2~3回でいいのに、毎日洗濯しなくてはならない。それまで水道光熱費を合算しても月に1万円もいかなかったのに、3万円近くに増えました。孫娘は自分の立場を理解しているのか、おとなしい。“ママに会いたい”などとも言わないんです。ずっとタブレットを見て遊んでいます。いったい、どんな育て方をされたのか。ときどき不憫になります」
コロナ禍で保育園が休園になり、洋子さんは仕事を長期に休まねばならなかった。
「外に出るのが好きな私が、家で孫といると、本当に腹が立ちますよ。幸い、庭があるので、そこで遊ばせていましたけれど。さすがに、この状態が続くと限界が見える。児童養護施設、グループホームなども問い合わせたのですが、やはりそこに預けることはできなかった。それにやはり、一緒に住むと情のようなものも芽生えてくる。コロナ禍中、息子があまりにも家に帰ってこないし、連絡も取れないので会社に電話をしたんです。そしたら、4月末日で退職していると聞き、驚きました」
息子は、メンタルを病み、1週間以上ビジネスホテルで生活をしていた。
「部署異動で上司にいじめられたんだとかで、出社拒否をしていたらしいんです。それで退職を促されて辞めてしまった。バカじゃないのかと思います。家に連れ戻して、今は寝ています。今って、退職金もほとんど出ないんですね。弁護士に相談したら“退職してしまったら手の打ちようがない”と言われました」
孫娘と息子の生活費、保育園代などが消えていく。
「夫の遺産と、私のバイト代で、息子と孫娘を養っている状態です。食費、光熱費、通信費、保育園代……毎月、10万円近くが飛んでいくんですよ。孫は成長するし、息子も再就職したり、再婚したりするかもしれない。でも、この状態があと3年続いたら、間違いなく破綻する。私はとにかく、自分の娘だけには迷惑をかけたくない。そのために頑張ってきたのに、こんなことになるとは思いませんでした」
今の願いは、息子が再び就職し、家にお金を入れること。孫娘が成長し、息子の金で進学すること。
「絶対に自分の娘には迷惑をかけたくない。今、私を支えているのは、その強い気持ちだけです」
Writer&Editor 沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。