夫に加え、義母も養うことに
コロナ禍によって単価の高い広告などの仕事は減るも、単価の安い仕事をいつも以上に発注を受けるようになり、香苗さんは3人を養うために必死で働くようになった。人間らしい生活がまったくできていなかったと振り返る。
「フリーランスでただでさえ家で仕事をしている中、先方がリモートワークになって打ち合わせなどもオンラインでするようになると、家を出る必要がまったくなくなるんです。化粧もweb打ち合わせのときに最低限だけするようになり、映る上半身しか気をつかわなくなる。そして極論ですが、臭いも自分さえ我慢できれば他人に迷惑をかけるものではなくなるのでお風呂に入る頻度も減りました。唯一会っていた夫との時間もなくなったので。
仕事をして、ご飯を食べて、寝るという生活でした。買い物もネットスーパーでドア前に置いてもらい、1週間で外出するのがゴミを出す週2回の数分だけになった時期もありました」
夫を刺激してはいけないと義母からの助言もあり、夫の様子は義母から伝えられるだけ、お金を渡すだけの結婚生活がもう1年以上続いていた。こんな夫婦生活に違和感を覚えるも、今離れるのは見捨てることと一緒、と自分を言い聞かせていたという。
「たとえ一緒に暮らしていなくてもどちらかがダメになっているときに助けるのが夫婦だと思いますから。私の母も、働かない父と私たちのために必死で働いていました。だから、受け入れるしかない。夫はすでに少しずつ働けるようになってきて、義母も働きに出ているようなのですが、お金の額は変わらず、あちらがどのくらいの収入を得ているのかも教えてくれません。別居婚だから教えてくれないと何もかも謎のままなんです。義母が引っ越して来てくれたから私が仕事を続けていられるわけだから、これも我慢するしかないのでしょうか」
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女性の社会進出で共働きが主流となり、まだ少ないながらも専業主夫をしている男性もいる。男性が絶対に家族を養わないといけない時代ではなくなった。また、別居中でも法律上で婚姻関係が続く夫婦は生活費を分担する義務が生じる。しかし、夫は回復傾向にあり義母も働き始めたものの、収支の報告は一切なく、今まで通りの生活費が香苗さんにのしかかっている状況には疑問が残る。
信頼関係以前に他人のような関係になってしまった夫婦を無理に継続させるのはなぜなのか、一度仕事を止めて考える時間を持つことが、香苗さんには必要だと感じる。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。