税務調査と聞くとあまり良いイメージはなく、自分が調査対象になったらどうしようと心配になる方がほとんどではないでしょうか。そもそも税務調査の対応方法や、何を調べられるのかわからない方もいらっしゃると思います。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税務調査のサポートを通じて得た幅広い知識や経験に基づき、税務調査の内容や準備書類についてご紹介したいと思います。

目次
税務調査とは?
税務調査の流れとは
税務調査で準備しておくものは?
税務調査はどこまで調べられる?
まとめ

税務調査とは?

税務調査とは、過去の申告内容が正しいか、決算書や帳簿書類等を確認し、申告内容の誤りや無申告が発見された際に課税額の修正をするための取り組みです。法人税や所得税、消費税の申告状況に関しては、職員がその机上でデータベース内に蓄積された資料を分析します。そして必要に応じて事務所や社長の自宅への訪問が行われます。

まず押さえておきたいのは、税務調査には「任意調査」と「強制調査」の2種類がある点です。結論として、ほとんどのケースが任意調査であり、強制調査が行われることはほとんどありません。

任意調査

任意調査とは、その名の通り「納税義務者の協力を得て進める調査手法」です。注意したいのは、質問への回答や帳簿提出は拒めないということ。国税通則法により、担当官には「納税義務者に質問し資料提出を求める権利(質問検査権/第74条の2)」が与えられるからです。

万一にも調査を拒んだり調査官の指示を無視したりすると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます(国税通則法第128条2号)。

強制調査

一方の強制調査とは、国税犯則取締法に基づいて令状が取られ、査察官と呼ばれる担当者が納税義務者の意向に関わらず調査する手法です。なお、強制調査が行われるのは組織的かつ悪質な不正が常態化している・悪質かつ大口の所得隠しが行われている(またはその可能性がある)といったケースに限られます。したがって、単に申告内容に不安があるというだけなら強制調査の可能性は考えなくても良いでしょう。

税務調査の流れとは

税務調査には「突然調査官がやってくる」「代表者が質問攻めにされる」といったイメージが付きものです。しかし、実際にはほとんどのケースで事前連絡があり、当日は同席する税理士に大半の対応を任せることになります。

以降では、税務調査の流れを俯瞰した上で、調査対象に選定された後の各プロセスについて解説します。

【税務調査の流れ】

1. 調査対象選定のための準備調査

2. 事前通知

3. 実地調査

4. 修正申告または更正処分(指摘事項有の場合)

調査対象選定のための準備調査

担当官により、調査対象法人の直近3~5年分の申告書を分析します。この時、各期の決算書を並べて推移の概観を行い、併せて勘定科目内訳明細書も精査しながら、整合性や合理性に関する要確認項目がピックアップされます。

また、確定申告書に添付された「法人事業概況説明書」の内容や、過去の税務調査時の記録も参照されます。基本的な会社情報(事業内容や従業員など)や、以前調査した時の状況(代表者の性格や会社が抱える課題など)から、調査の必要性をさらに見極めるためです。

事前通知

準備調査で「実地調査の必要性」ありとされた場合、担当官から会社に日程調整のための通知・連絡が行われます。なお、税務代理を依頼している場合は会社ではなく税理士に連絡がきます。調査官から連絡がきた時には、調査を拒否せず協力する姿勢を見せながら、目安として2~3週間以内で対応できる日時を指定しなければなりません。実務において、上記の実地調査に関する連絡は「事前通知」と呼ばれます。

実地調査

実地調査は会社の規模によりますが、おおよそ2~3日程度で終了するものです。準備調査で要確認事項となった項目(帳簿とその他資料に矛盾がないか等)について精査されます。会社代表者のヒアリングにより、事業内容や業務のプロセス等、内部統制の課題などについて調査官から雑談形式で質問されます。

その後、総勘定元帳や補助元帳をはじめとし、領収書等の原始記録、その他契約書や納品書等の証憑書類の確認が行われます。

修正申告または更正処分(指摘事項有の場合)

実地調査後の精査で申告漏れが見つかった場合、国税庁または税務署側で課税額を修正する「更正」の処分を受けます(国税通則法第24条)。なお、無申告だったケースの処分名は「決定」です(同法第25条)。

また、更正処分を受ける前に自主的に経理・会計を見直し、修正申告を行うことも可能です。

税務調査で準備しておくものは?

税務調査では、下記のような資料等の準備が必要です。調査官側で、取引等と実際の処理の整合性を厳正にチェックしつつ、さらに経営者が予測していない不正リスクについて確認します。

・税務申告書関係資料

直近3年間分の決算書、申告書、勘定科目内訳書、固定資産台帳等(法人)

・会社組織・事業内容に関する資料

会社組織図、資本系統図、商品の説明資料(サンプル等)、役会等議事録、経理やその職務分掌に関する規程、その他会計システムの概要を示す資料等

・人件費に関する資料

給与台帳、源泉徴収簿、タイムカード、就業規則、社員名簿、シフト表、配席図等

・その他の資料

業務日報、税務署への各種届出書の控え、海外送金や受金に使用するアプリケーション等

税務調査はどこまで調べられる?

通常は、帳簿関係書類と領収書等や契約書、納品書等の証憑書類の確認を行った後、実地調査の際に用意できなかった資料の提出、追加のヒアリング対応などを行います。調査の内容に応じて、預金の動きを確認するための「銀行調査」や、提出された資料について取引先や運送会社などに裏を取るための「反面調査」も行われます。

加えて、一般消費者を顧客層とする業種(飲食業や宿泊業など)や、その他土地建物の状況を目視で確認しなければならないケースでは、以下の調査が行われることもあります。

内偵調査

店舗付近で客の入りを確認して売上予想を立て、必要に応じて担当官が客を装って入店し従業員数や客単価を調査するものです。内偵により行う収支予測と申告内容との間に乖離があるかを確認します。

外観調査

社長の自宅や事務所を訪れ、過度に華美でないか・修繕痕はないか・自動販売機を何台設置しているか、などといった情報を調べます。社長個人の支出を損金として計上している、雑収入関係を適切に計上していない等の不正の推察が目的です。

まとめ

税務調査される会社には一定の傾向があるものの、これに該当しなければ確実に調査対象から外されるとはいえません。あくまでも決算書や勘定科目をベースとし、要確認項目の抜き出しつつ実地調査の対象が選定されています。ただし、資料保管と日々の業務を意識していれば、過度に税務調査を恐れる必要はありません。日々の適切な業務と準備、これが税務調査の最も効果的な対策でしょう。

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

 

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