娘の妊娠が心配で、生理周期もメモしていた
由貴子さんは「2浪しようが、別にいいじゃない。人生は長いんだから」と言った。それに対して、不安を訴える英恵さんに「あなたはおかしいよ。娘の人生とあなたの人生は別なんだから」と言ったという。英恵さんは娘にいったい何をしていたのだろうか。
「衣食住をしっかりと整え、進路のこともよく話し合っていました。まずは食ですが、栄養を考えて3回の食事をつくり、夕飯は家族で食べること。愛情たっぷりな料理を食べていれば、娘はグレないと思っていたんです。あと、私に似て背が低いから、似合う服をスタイリングしてあげていました。ダサくて笑われるとかわいそうですから。部屋の掃除もしてあげていましたよ。あとは、進路について。娘は芸術系に進学したがりましたが、付属の大学に行くことをすすめました」
友人関係に口を出したり、門限の設定をしていなかったかを聞くと、それもアドバイスしていたという。付き合っていい子・悪い子を伝え、門限は19時だったという。娘にとってかなり窮屈だったのではないか。
「それは由貴子さんにも言われました。でも私たちの世代はもっと厳しかったので、ずいぶん自由にさせてあげていたんですけれどね。衣食住といえば、健康管理も私がしていました。今回のことで、心療内科に通わせましたし、半年に1回、歯科検診に行かせていたし、生理不順で私みたいに妊娠しにくくなってしまうと、将来がかわいそうなことになるので、娘の生理周期も把握していました。もちろん、娘が妊娠していないかチェックする目的もありました」
心療内科には娘を単独で行かせたのかを聞くと、「内気な子で、暴れ出したら困るから、一緒に診察室に入り、先生に状態を伝えた」という。これらの行動を「親として当然」と続けた。
「それを、由貴子さんは“やりすぎだよ。娘ちゃんが息詰まるのもわかる”と娘の味方をするんです。彼女と話すたびに、私が母になってからの20年間を否定されているような気持ちになり、さまざまな不安が拡大して、このまま消えていなくなりたいと思うこともあります」
今は、寝込むことも多く、家が荒れているそうだ。
「まさか友達にこんなひどいことを言われるとも思わなかったし、そのせいで体調もすぐれない。娘があんな状態になってしまったのは、私が悪いと言われているような気がして、どうにもなりません。この苦しみをどうすればいいか、誰か正解を教えてほしい」
今、娘は家を出て友達と住みたいと言っているという。英恵さんはそのことをもちろん、許さない。
子育ても、人生も不安を数えていたらきりがない。不安を潰すように将来を考えている人は、結果的に我が子の可能性も狭めてしまうのではないか。それを気付かせてくれる友達を悪者にした結果、母娘の未来はどうなっていくのだろうか。
「人並み」の学歴と勤務先を確保しても、先のことはわからない時代だ。正解を求めるあまり、迷走する前に、すべきことについて、人はなかなか気付きにくいのかもしれない。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。