家のドアを見るだけでも、心が満たされたが……
朋絵さんは恵麻さんへの想いが募った結果、恵麻さんの自宅前に行ってしまう。
「さすがに、家まで追いかけて帰宅を待って声をかけたら不審者になるので、そういう感じではないです。会えないから家の前まで行こうかな……という感じ。恵麻さんの家は港区にあるヴィンテージマンションでとても素敵なんです。外廊下だから、その扉を見ているだけでも心が満たされました。
わざわざ行ったんではないんです。私の実家は横浜なので、実家に行った帰りに、”見に行った”んです。15分くらいでしょうかボーッとドアを見ていたら、薄毛の小柄な男性が恵麻さんの家に合鍵で入って行きました。着替えると恵麻さんの犬を連れて出てきて、散歩を始めたんです」
そこで、朋絵さんは「恵麻さんには彼氏ができたから、自分は距離を置かれたんだ」と納得したという。
「な~んだ、がっかり……という感じでした。恵麻さんは背が高くすらりとした人なので、もっと素敵な人と恋をするのかと思ったら、そうでもない男性でしょ。あさましいというか、悲しいというか……。少なくとも私と出会った当初は、彼はいなかった。“男なんてもうこりごり”と言っていたのに、まさかの、男性ですよ。仕事じゃなくて男性なんだと思って、恵麻さんに対する気持ちが冷めたんです」
朋絵さんは潔癖なところがある。大好きな恵麻さんに恋人ができ”自分と同じただの女”だと思って目が覚めたという。
「それと同時に、恵麻さんほどの女性でも、50代で恋人をつくるとなると、あの程度の男性しかいないんだな……と思ったんです。向こうにしたら”大きなお世話”なのかもしれませんけれどね」
その後、朋絵さんは、恵麻さんとお揃いで購入したバッグやペン、アクセサリーを処分した。
「見るのも嫌というか、あんなに好きだったのに変ですよね(笑)。主人が生きていたら、こういうことも話せたんですけれど、もういませんから。私も恵麻さんみたいに恋人を作りたいんですが、やはり背が高いイケメンじゃないとダメですね」
人は自分に足りないものを、友人や恋人に求める傾向がある。それが募ると、まるで「外付けの機能」のように、相手を自分のアクセサリーのように扱ったり、その人に同化して、その知識や経験を自分に取り込もうとする人もいる。人間関係はギブ&テイクだ。一方的にイメージを押し付け、何も与えない人間関係はやがて破綻する。破綻と執着が重なればやがて破滅に向かうのではないだろうか。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。