元夫からの復縁の提案は、愛情が理由ではなかった
子どもが小学生高学年になり、キッズ携帯を持たせたことで子どもは直接父親と連絡を取るように。そんな中で和香子さんは勤め先に新しい恋人ができたという。離婚から6年後のことで周囲も応援ムードだった。娘以外は。
「娘に紹介するつもりはなかったんですけど、私の母が娘にサラッと伝えてしまって。母はすでに伝えていると思っていたみたいです。そこから娘がよそよそしくなりました。最初は気にし過ぎだと思っていたのですが、元夫から『娘が僕と暮らしたいと言っている』と聞いて、目の前が一瞬で真っ暗になりました」
「娘を失ってしまう」という喪失感にかられた和香子さんは恋人にすぐに別れを告げて、そのことを娘に伝えたものの、娘の反応は「あっそう」。このままでは父親を選ばれてしまうと焦っていた和香子さんに元夫は復縁を提案してきた。
「娘は元夫の前で『もう家族が戻れなくなってしまう。嫌だ』とずっと言っていたみたいで、それを聞いての“子どものため”の復縁を提案してきたのです。私は今この人に愛情は感じていないし、もう他人だと思っていました。だから本当に悩みました。
私が出した結論は、子どもを失わないため、子どもが望む再婚をするということでした。前よりも夫にわかってほしいという気持ちはない。だからこそうまく家族をやっていけそうな気がしたんです」
復縁して2年、今も3人で家族を続けている。この2年での心境を聞いてみたところ「想像していたよりも楽」という言葉が返ってきた。
「今の状態は“仮面夫婦”というものなんですよね。元夫婦が寄りを戻しての仮面夫婦だから、他の人たちよりも特殊なのかもと当初は少し身構えていましたが、別れていた頃と同じような気持ちのままです。もちろん情みたいなものは芽生えはしましたが、分かり合えなかったという過去があるから無駄な努力をしようとも思わない。その分、楽なんです。再婚前にお互いがされたら嫌なことを箇条書きにして共有したりしたので、そのストレスもなくなりました。この関係はいつまで続くかわからないけれど、ひとまずは娘が大人になるまでは続けるつもりです」
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仮面夫婦は表面的にだけ仲の良い夫婦関係のことをいうそうだが、表面を繕うための無理からストレスを抱えてしまう可能性も高いという。しかし、その一方で、和香子さん夫婦のように、相手にわかってもらいたいという一種の執着がなくなったことで愛情があった頃よりも関係がうまくいく場合もある。和香子さんは仮面夫婦になってまだ2年。この先熟年離婚の道を選ぶのか、友だち夫婦のような関係になれるのか。子どもが巣立ったとき、「相手への情ではなく、より自由なほうを選択したい」と和香子さんはいう。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。