赴任先で女友達と密会する
南国の赴任先で、直道さんは自由に振る舞った。西洋風の建物に、南国の植物と湿気と果物の香りを含む、生温かい風に吹かれて、仕事にも女性遊びにも邁進していた。
「現地の女性に飽きると、東京から大学の同級生を呼び寄せた。ポンポン出てくる会話と、旺盛な好奇心で現地の市場でモノを食べたり買ったりする。あれは、自信があり、コミュニケーション力に自信がある女性ならではの行動だよね。そのことを彼女に話したら、『だから私と結婚しておけばよかったのよ』と笑っていた。彼女はアグレッシブな女性で、恥ずかしがるばかりの妻とは真逆。それも刺激的だった」
赴任から半年後、妻の出産時に直道さんは日本に一時帰国した。
「息子が生まれたときは感動したけれど、自分の人生が終わってしまったかのような気持ちになったよね。言葉にこそ出さなかったけれど、『こんなにつまらない女と家庭を持ってしまったんだ』って。もし、大学時代の同級生の女性と結婚したら、彼女はきっと現地で出産していただろう。そして人脈を開拓して、ビジネスも始めていたかもしれない。それなのに、妻は何もせず、何も言わず、いつもニコニコ笑っているだけ」
直道さんが見つけた日記帳には、妻の笑顔の裏の生々しい感情が書かれていた。
「日記には、大学の同級生の女性が、僕と男女関係になった後に帰国して、臨月の妻に会ったことが書かれていた。浮気をばらしたわけではないけれど、妻はそれをかぎ取っていた。日記には、『経済的に優越感を持つ者だけが持つ、貧しき者への同情癖。それは差別。きっと現地の女性にも、その劣情で行為に及んでいるんだろう。汚らわしい』などと書いてあった。もう30年以上前のことなのに、頭を殴られたような感じだよ。だって結婚から35年間、ずっと妻を凡庸で詰まらない女だと思っていたんだから」
【日記には知りたくなかった浮気の履歴と、妻自身の恋心が綴られていた……~その2~に続きます。】