コロナになって、家族が必要になる
40年間の友情が続いた智子さんと良子さんを分断したのはコロナだった。
「あれだけ命を脅かされる報道をされた。私は楽観的というか、“まあどうにかなるでしょ”くらいの気持ちだったのですが、良子さんはガンキャリアでもあるので本気で対策していた。それは本当に犯罪すれすれの個人攻撃で恐ろしいほどだったんです」
それまでは、智子さんは「私がコロナになっても、良子さんが差し入れくらいしてくれるだろう」と思っていた。
「それで私がコロナになっちゃったんですよ。高熱が出て苦しんでいるときに“通勤しているからだ”などと激しく責めてきた。そのときに、“もう良子さんとは違うんだな”と思ったんですよね。14日間、家から1歩も出られなくて、ホントに大変でした」
そのときに助けてくれたのが、現在の夫。
「会社の後輩で、よく慕ってくれていたんですよ。共通の趣味があって、SNSでも繋がってお互いの動向を知っていたんです。自宅療養のことを書いたらすぐにメッセンジャーが来た。彼は離婚していて、リモートワークになっていたから、ウチの使っていない部屋に泊まり込みでいてくれたんです。家に誰かがいると安心するもので、コロナが治ってからも帰らない。そのまま向こうは自分の家を引き上げてしまい、それからずっと一緒。コロナで家族が必要だと思ったんです」
この結婚を良子さんに伝えると、「仲間だと思ったのに、裏切者!」そして「その男は財産目当て」と言われた。
「財産目当てって、ただの会社員で、故郷を捨てた私に財産らしい財産はない。夫の方がむしろ不動産を親から譲られている。熟年婚って、向こうの子供も成人しているのでいいんですよ。面倒なことがない。それにしても良子さんの言い方ですよ。“おめでとう”の言葉はなくとも、“裏切者”はないよね……その後、共通の知人との間に、私が略奪したとか、オトコ好きだとか、金に汚いとかいろんな噂を立てられて、友情は終わりました。結婚してからも“離婚した方がいい”みたいなLINEが来るのでブロックしたんです。同じ独身だったから、良子さんとの友情が続いていたんだな……と思うと、少し寂しいとは感じます」
熟年離婚も多いが、熟年結婚もちらほら聞く。離婚や死別した同士が、SNSなどで出会うからだろう。人間は似た者同士しか愛し合えない部分も多い。独身という状況で結びついていたら、それが友情を維持する根拠になっていたりもする。そこを踏み越えれば、独身という緩やかな連帯感で結ばれていた関係は崩壊する。
そこには「結婚こそ幸せ」というある種の基準があるからではないか。できる人は“勝ち組”とされる価値観は根深く残っている。そこが変わる日が来るのは、おそらくまだ時間がかかると推測される。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。