関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、肉親を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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今回の依頼者・志乃さん(仮名・67歳)は「なんで私が探偵事務所の椅子に座っているのか、悪夢を見ているようです」とかなりやつれた様子で私たちの事務所にいらっしゃいました。
夫は子育てにノータッチな仕事人
志乃さんは私の知人の紹介で私たちに調査を依頼。知人は「志乃さんご夫妻は、結婚40年。お子さんも2人いるの。でも、最初の10年間、お子さんに恵まれず、結びつきが強い。少女のような志乃さんとダンディなご主人は、おしどり夫婦で有名なのよ。だから今回のことで落胆していて……力になってあげて」と語っていました。
志乃さんは「今度のことで誰も信じられなくなってしまって。あなただけが頼りです」と私を力強い目で見つめます。まずは、夫婦のなれそめを伺いました。
「私が洋裁学校を出て、パタンナーをしているときに、当時大学院生だった主人と出会いました。スキーが共通の趣味だったのよね。2年お付き合いして、結婚して……主人は会社勤めの傍ら、スキー関連の仕事をしたり、親から譲られた不動産の管理をしていたんですよ。10年間子供ができなくて、あきらめたときに37歳で娘を、39歳で息子を産んでからてんやわんやでした」
夫は子育てにノータッチだった。
「当時の男の人は、仕事最優先だったから、仕方ないですよ。主人はほとんど会社にいて、接待だ、ゴルフだと飛び回っていた。私は仕事を辞めて家庭に入って、子育てに専念しました。それはそれで楽しいし、主人はそんな私をとても大切にしてくれて、家にマッサージ師を呼んでくれたり、食事に連れて行ったりしてくれました。そういう人はとても少なかったので、うらやましがられました」
夫は役員まで上り詰め、2年前に定年退職した。
「それから夫婦仲良く楽しく暮らしていました。子供たちもとっくに結婚して家を出ていたので、別荘に行って家の手入れをしたり、ゴルフをしたり……コロナでも夫婦で楽しめることってたくさんあるんですよね」
【娘が半年前に出産して、夫の異変に気が付いた…次のページに続きます】