嫁としての務めは果たした
子育ては順調で、息子も娘も有名大学を出て、従業員を大切にする会社に勤務し、やりがいがある仕事をしている。ふたりとも結婚しており、孫も2人いる。
「私たち夫婦が60歳のときに、義父がガンで亡くなり、その1年後に義母が亡くなりました。義父は銀行員だったので、義母の死を計算して、もめないように遺産はしっかり分配してくれました。4人兄弟に公平に分けてくれたので、本当にスムーズに遺産相続が終わりました。驚いたのは、夫とは別に、私だけに相当の遺産をくれたこと。全員が共働きの義兄夫婦も“スミちゃんがいてくれたから安心して私たちも生活できた。これはあなたのおかげよ”と言ってくれてうれしかったですね。私は田舎育ちで古風なので、義両親を送ったから、ここからは私の人生だという思いがあります。そこで、これまでやりたかったけれどできないことをやろうと思ったのです」
61歳から、スキューバダイビング、ダンス、マンドリン、水泳、映画鑑賞、英会話……あらゆることにチャレンジした。
「コロナ前に大好きな『サウンドオブミュージック』の舞台・ザルツブルグに一人旅をしたり、オーストラリアにダイビングツアーに行ったり、夫と出雲大社にお参りしたりしていました」
しかし、コロナで海外に行けなくなってしまった。
「国内でもできることはあると、コロナ禍中であれ、いちはやく上演した歌舞伎や現代劇を観に行ったんです。有名な役者さんが舞台に立って、同じ空間で空気を吸っているのが不思議な気がしました」
アクティブな寿美子さんは、さまざまな劇場を回る。
「コロナ前に自分で楽器を演奏したり、踊ったりという趣味を始めたのですが、あれはなかなか疲れる。コンサートにも行きましたが、私が好きなポップスやロックは、観客がみんな立っているんです。私だけが座っていてはアーティストに悪い気がして辛い。その点、観劇はラク。ずっと座っているだけで、キレイな世界が広がって話が勝手に進んでいく。いろんなジャンルを観たいと思いました」
歌舞伎から、若者に人気の2.5次元舞台まで観劇のジャンルを広げていった。
「歌舞伎は長時間で、解説を聞かないと厳しい。2.5次元はテンポについていくのが大変ですし、なによりチケットが取れない。それぞれ5回ほど行きましたが、どうもハマれない。そんな話を、ママ友であり“ご近所さん”のSさんに話したところから、今の苦しみが始まったのです」
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取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。