親のことが嫌いと思う私が悪い
智子さんはすでに学生時代には母親のことが大嫌いだったと振り返りますが、そんなことを思うのは悪いことだという思いがあり、誰にも相談できず。母親にイライラする度に自分のことを否定する気持ちが強くなっていったそう。
「外から見たら本当に普通の家庭なんです。母親はちゃんとごはんの用意をしてくれるし、父親は学校にも行かせてくれた。ちゃんとした家庭の中で育っているのに、母親のことを嫌いになる気持ちが止められませんでした。今でこそ毒親という言葉があって、母親が嫌いであれば無理に仲良くしないでいいという書籍がたくさん出ていますが、当時は……。親に対してそんな気持ちになること、そんな自分が悪だと思っていました。
母親は相変わらず私のことを否定し続けていたし、そんな母親に私はイライラしていた。だからもう視界に入れたくなかったんです。高校、大学時代はご飯を食べたりお風呂やトイレ以外はずっと部屋に籠りっきりでしたね」
大学を卒業後は寮がある飲食店でホールスタッフとして働き始めます。職種はまったく選ばずに、家を出ることだけを一番に考えたと言います。
「1人きりではなく、家族がいるところで1人ぼっちという状況が本当に辛くて、もう限界でした。でも、そんな私に親は気づいていなくて、部屋に籠りがちな陰気な子という印象だったんだと思います。就職先が決まったときに『あんたみたいな社交性ゼロの子が飲食店で接客なんかできないでしょう。いつ帰って来てもいいように部屋を残しておいてあげようか?』と母親は笑いながら言いました。これでも私には友人もいたし、ご近所さんにはちゃんと挨拶をしていた。大学時代には飲食店でアルバイトもしていたのに。本当に私に興味がなかったんでしょうね」
それでも一度離れたら、大人になったら向き合えるという思いがあったそう。
「まだ期待する気持ちがあった。ちゃんとした家族になれるって、親のことを嫌いと思う気持ちは若い頃の一時の感情なんだって思いたくて……」
結婚後に一度密になった親子関係だったが……。
【~その2~に続きます】
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。