取材・文/大津恭子
定年退職を間近に控えた世代、リタイア後の新生活を始めた世代の夫婦が直面する、環境や生活リズムの変化。ライフスタイルが変わると、どんな問題が起こるのか。また、夫婦の距離感やバランスをどのように保ち、過ごしているのかを語ってもらいます。
[お話を伺った人]
大西一成さん(仮名・56歳)大手建設会社に勤務し、長年プランナーとして都市開発事業に携わってきた。2年前から関連企業の建築会社に出向し、現在は現場監督の育成が主な仕事。
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夫婦は互いのことをすべて知っているわけではない
ある日、ひとりでシャンパンを飲んでいた妻を偶然見かけたが、そのことを話題にできない――と照れながら話してくれた大西さんに、約半年後、あらためて状況を伺った。
「駅ナカで見かけたことは話していません。この先も話さなくて済みそうです。その代わり、いろいろなことがわかってきましたから」
大西さんはある日、気の置けない職場の同僚と食事をしながら、『妻がひとりで駅ナカで酒を飲んでいた』という話をしたそうだ。すると、有美子さんを知る女性Hさん(有美子さんの元同僚)が、「まったく不思議なことではない」と話してくれた。理由は2つある。
1つめは、有美子さんはもともとお酒が好きで、同僚時代は頻繁に飲みに行っていたこと。大西さんと結婚し、妊娠・出産を機に飲む機会が減っただけではないか、という指摘だ。
「そう言われてみれば、結婚前はみんなでよく一緒に飲みに行った記憶があります。嫌なことがあって飲んでいたとは限らないんですね。ちょっと安心しました」
2つめは、有美子さんは今、数人の部下を持つ立場にあり、自らも猛勉強をしていること。同じ経理職のHさんは、有美子さんから参考書についてアドバイスを求められたことがあったそうだ。
「昔の同僚と、そんな情報交換までしていたんですね。あとで妻にさりげなく『試験を受けるんだって?』と言ってみたら、『この前、受かったって言ったでしょ!』って怒られました。茶色い本はパソコン財務会計の主任者向けのテキストだったようです。その都度話してくれているのに、僕がちゃんと聞いていないことが多いようで、ほかのこともいろいろ怒られちゃいました」
帰宅後も炊事や洗濯、子供や夫の世話に忙しい妻は、家で本を広げて勉強する時間はなかなか取れない。そこで、ノー残業デーの水曜日、カフェに1~2時間立ち寄って勉強していることを、大西さんはこのとき初めて知ったそうだ。
【どうせ聞いてくれないから、言っても仕方がない。次ページに続きます】