夫のヒエラルキーは妻のヒエラルキー!? 社宅時代の妻の苦労
何よりも朝子さんを悩ませたのは、夫のヒエラルキーがそのまま妻に当てはまることだったという。
「子供同士の歳が近いと、ヒヤヒヤでしたね。上司の子を泣かせるわけにはいかないですから。ウチの娘は体が大きかったから、よく男の子と遊んでいたんですけど、本気で『ケガさせちゃダメだよ』と諭していました。子供同士はすぐ忘れて仲直りするからいいんですけど、母親同士はそういうわけにいかない。子供のことで執拗に恨み言を言われて、陰で泣いているママ友もいました」
朝子さんは、スーパーへ行く際に夫の上司の妻に声をかけ、ときには運転手の役割をした経験もあるそうだ。
「年齢は関係ないんです。相手が部長の奥さんだったら、それがいくら年下でも、『一緒にいかがですか? 何か必要なものがあれば買ってきましょうか?』とお伺いを立てるのが当たり前。もちろん、威張っている人ばかりじゃないですよ。『気を遣わないで』とか『助かりました。ありがとうございます』とか言ってくれる人もいました。でも逆に、旦那さんが昇進した途端に態度が急変する人もいたんです。10年前に社宅制度がなくなって、ホッとした奥さんは案外多いんじゃないかしら(笑)」
社宅がなくなり、持ち家に住む今も、朝子さんは「上下関係を臭わせる人は要注意」と肝に銘じているそうだ。
智仁さんは言う。
「僕らが会社に入ってしばらくはわかりやすい年功序列が続きましたから、それはそれで絶対的な上下関係はありましたよ。でも、妻たちまで社宅でその関係を気にして暮らしていたなんて、気付きませんでしたね。まあ、もし聞かされていたとしても、『うまくやってね』で終わっていたかもしれませんけど。それにしても、あの人がXさんの奥さんかぁ。そりゃ、威張ったおばさん呼ばわりはダメだよなぁ」
智仁さんは苦笑するしかなかった。
最近は、Xさん妻とその犬を見かけると、目を合せないよう帽子を目深に被り、りんちゃんのリードを短く持ってコース変更をしているそうだ。
取材・文/大津恭子
出版社勤務を経て、フリーエディター&ライターに。健康・医療に関する記事をメインに、ライフスタイルに関する企画の編集・執筆を多く手がける。著書『オランダ式簡素で豊かな生活の極意』ほか。