怒りの矛先は7:3で自分。家族愛溢れる怒りに、妻の顔が浮かぶ
横井さんが心を痛めながらも読み進めると、「7:3で僕への不満です(笑)」とのこと。3割については、ママ友との確執や、娘の学校の担任との軋轢、反抗期にさしかかった息子の暴言……等々だそうで、若かりし妻の不満や悩みが綴られていた。
「あの頃こんなことで傷ついていたのか、とか、そんなひと言で腹が立ったんだ、とか、今さらながら女房の気持ちがわかっておもしろいですね。もちろん僕が反省しなきゃならないことが多いんですけど、仕事や人間関係で、そんなことをひとりで抱えて悩んでいたんだね、ごめんな、って気持ちのほうが強いですね」
それと同時に「彼女は自分のことよりも、僕や子供がバカにされることが我慢ならなかったようですね」と分析する。
「たとえば、ある顧客が僕を小馬鹿にするような言い方をしたとか、娘が部活で先輩にいじめられているみたいだとか、そういう場面では個人名を記して、『いつか天罰が下る!』とか書いてあるんですよ。プンプン怒った顔してノートを開いて、書き終わったらスッキリしている姿が目に浮かびます。やっていることが子供っぽくて笑っちゃいますよね」
小さなノートに不満を書き連ねることで、日々の小さな憂さ晴らしをしていた久美子さん。書いたあとは何事もなかったように振る舞っていたことを思うと、横井さんは愛おしい気持ちになるそうだ。
「こんなこと、何十年も経ってから知ってもどうにもならないんですけどね、でも、そうか、そうだったのか。ごめんな、ありがとうなって、素直に墓前で言うことができましたよ」
横井さんは今、その“悪口ノート”を捨てることができず、困っているという。
「こればっかりはパソコンにでも打ち込んでくれていたほうがよかった。一発で消去できますからね。ノートは三回忌後の整理のときに、そっと処分してしまおうと思っています。でないと、女房に『人の秘密、いつまで握っているつもりなの!』って怒られそうですから」
取材・文/大津恭子
出版社勤務を経て、フリーエディター&ライターに。健康・医療に関する記事をメインに、ライフスタイルに関する企画の編集・執筆を多く手がける。著書『オランダ式簡素で豊かな生活の極意』ほか。