息子は素直に受験勉強を始めたが
息子は父親の学歴コンプレックスを知っていた。その怒りに触れ「わかった」と受験勉強を始めたが、中高の6年間、勉強はガールフレンド頼みだったので、学力が身についていなかった。
「高校3年生の1月に、中学1年の勉強から始めた。2浪して無名の大学に合格。1留して卒業したころには、25歳になっていました。就職氷河期だったので、次男には正社員就職の道は厳しかった。ところが、先輩のツテでレストラン運営会社に入ったら、たちまち頭角を現し、30歳のときに役員になったんです」
この頃は羽振りがよく、結婚したのもこの年だった。相手は次男と同じ年の元キャンペンガール。その経歴通りに、美しい女性だった。
「“この人と結婚する”と最初に紹介されたとき、なぜかソクラテスの名言と言われている“結婚してもしなくても、君はどのみち後悔することになる”を思い出したんです。この子と結婚しても、息子は後悔する。結婚しなかったらそれはそれで後悔するという感じ。長男は弟の妻の顔を見てハッとしていました」
長男の好みだったのだろうか。
「あ……それは違うというか……主人は10年くらい、夜間大学の同級生と関係を持っていて、その女性が家に乗り込んできたことがあったんです」
信子さんはあっけらかんと話す。聞けば、信子さんは性を嫌悪しており、夫とは子供を作るとき以外は、ほとんどしていないという。
「求められても拒んでしまう。今話題の妻公認不倫というやつです。でも相手の女性は本気だった。当時の不倫は命がけですからね。女性がウチに乗り込んできて、私の前で手首を切ろうとしたことがあったんです。そこにたまたま帰ってきたのが、当時高校1年生だった長男。柔道をやっていたから、女性のことをねじ伏せるようにして、私を守ってくれた。次男の嫁は、その女性そっくりだったんです」
おそらく、多感な時期に父親の色恋沙汰に触れて、長男は女性嫌悪になったのではないか。
「長男は夫を尊敬していましたし、夫も長男に厳しく接していた。私自身が恋愛は汚らわしいものだという意識が強く、長男はその影響を受けているのかもしれません。長男に女性の影はありません」
【次男の嫁による、熟年離婚の危機は、夫の“老いらくの恋”の気配があること……後編に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。