キレイな若い女性はたくさんいる。でも、キレイな60代女性は少ない
彼女は若々しく、別れた当時とあまり変わらなかったという。
「客室乗務員の仕事は肉体的にもきつく、40代になる前に内勤になり、定年後はマナーやファッションアドバイスの仕事をしながら悠々自適なんだって。結局、ご主人とは35歳の時に離婚して、たっぷり慰謝料をもらったらしい。彼女は子供を産んでいないからか、年齢相応に太ってはいるんだけど、すっきりしているんだよね。背筋がピンと伸びていて、大股で歩く。颯爽としているんだ」
1年前の再会では、2人で会場を抜け出し、地元・静岡の中でも高級ホテルのバーに行く。
「お互いに地元を離れて40年以上になるから、知り合いもいなくて気楽だったな。彼女が唐突に『斎藤君、あのときはごめんね』と言われて、ドキッとした。なんでもご主人はDV気味で、彼女が仕事とはいえ泊まりで家を空けると、『浮気をしていたんだろう』と手を上げられることもあったんだとか」
彼女は「そんなに言うなら、浮気をしてやると思ったんだけど、するなら好きな人がいいじゃない。そんな時に再会したのよ」と笑ったそう。
「その笑顔にやられちゃってね。なんとなく手を握って、そのままホテルの部屋に流れた。まあ、お互いに期待していたんだろうね。彼女は『もうおばあちゃんだから見ないで』と言っていたし、こっちもいろいろ自信のない部分もある。でも不思議なんだけど、暗い部屋でくっついて寝ていると、そういう気持ちになってくるんだよ」
その後、1~2か月に1回は、デートをしているという。
「キレイな若い女性はたくさんいる。でも、キレイな60代女性は少ないんだよね。それだけで素晴らしいプレゼントを受け取ったような気持ちになる。あと彼女はずっと仕事をしてきたから、私の気持ちを分かってくれる。映画を観ても、音楽を聴いても、一緒に楽しんでいる感じがうれしいんだ。女房とはこうはいかない。仕事の話をしたら、あからさまにうんざりした顔をされるからね」
斎藤さんは「デートはしても、毎回、そういう関係になるわけじゃないよ」と続ける。
「私にその気があっても、彼女が避けることがある。そういう時は黙って帰る。帰り道に、“今日はなかったことの可能性”に想いを馳せる。それは、この年齢だからできることだよ。もちろん、私がダメなこともある。でも彼女がその気になってくれていることを感じられたら、それだけでいい。人生はこれから。暗いことを考えないように、楽しんで生きるよ」
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。