うまくいかないのは、期待しすぎるから
妻に全く期待していなかったから、料理がマズくても、結婚してから太り始めても「まあいいか」と思っていたという。
「今の人の話を聞いていて思うけれど、うまくいかないのは、期待しすぎるからじゃないかな。仕事も家事も両立なんて、男は無理だよ。バカなんだから(笑)。夫婦とはいえ、所詮他人なんだから、一緒に生きるだけでいいんだ。結婚してからもいろいろあったけど、女房は知ろうともしないし、こっちもあえて言わなかった」
斎藤さんは、中肉中背で食べ物の食べ方がキレイな男性だ。アジアを舞台に活躍していただけあり、さっぱりした性格が外見にもにじみ出ている。アメリカントラッドの代表的なブランドのブルーのシャツに、チノパンがよく似合う。お腹が少し出ているが、愛嬌があるともいえる。
そして、手のツメが短く鼻毛が出ておらず、ひげをしっかりと剃っている。中年男性の脂っこい汚れのようなものが、雰囲気ごとない。聞けば床屋さんに月に1回行っているという。
「私を引き立ててくれた上司がカッコいい人で、毎週のように床屋さんに行っていた。『男の汚れはこびりつくものだ。床屋さんに削ってもらわないとダメなんだ』って口癖のように言っていた。清潔感があれば、女性からも男からもモテるよ」
50代前半まで、妻以外の女性との関係が年に2~3回あったという。
「昔はそういう接待があったから、プロのお店にも何回も行ったよ。若い頃はよかったけれど、20代の後半から決定的にダメになっていった。まあ、いろいろあって結婚して、それからはスナックのお姉さんとか、よく行く喫茶店のママとか、飲み屋で隣になった女性とかと、ちょっとした関係を楽しんでいたよ。関係っていっても、1回か2回くらい。向こうにとっても遊びだから。仕事関係の人とそういうことはしなかったね。会社から信頼されるには、余計な人間関係を作ってはダメだと思っていた」
最近の恋について伺うと、1年前に静岡の高校の同窓会で再会した初恋の女性と、いい関係だと言う。
「高校3年生で、私が東京に転校になった。そのときに私から彼女に不器用な告白をしたんだよね。あんなことをしたのは、後にも先にもあの1回だけ。確かに、1年前の同窓会で再会したんだけど、実は35年前にも偶然会っているんだよ。彼女はある航空会社の客室乗務員だったんだけれど、機内で『もしかして、斎藤君?』と話しかけてくれたんだ。あのときは驚いたよ。何回かデートしたんだけれど、それっきりになってしまった。今みたいにメールもケータイもない時代で、こっちもそれから結婚して引っ越したりして、お互い連絡が取れなくなってしまったんだ」
【勢いあるビジネスマンと、客室乗務員のアラサー時代の恋は実らなかったが、アラ還はまた違うものになった。~その2~へ続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。