選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
小津安二郎の映画といえば世界的にも評価の高い傑作揃いとして知られるが、その映画音楽についてはあまり、話題に上ることもなかった。ドイツを中心に活躍するピアニスト青木美樹による『東京物語~斎藤高順ピアノ曲集』は、小津映画の名作『早春』『浮草』『彼岸花』『秋刀魚』などから、小津とコンビを組んでいた1924年東京生まれの作曲家・斎藤高順によるオリジナルのピアノ譜を演奏したものである。
生前の小津は「ぼくの映画のための音楽は、何が起ころうといつもお天気のいい音楽であって欲しいのです」と述べていたという。どんなに悲しい場面であっても、悲しい曲でそれを上塗りするような野暮なこはしない。それはひとつの美学なのだ。
このアルバムの楽曲もことさら大声で何かを訴えるなことはない。平凡な日常をさりげなく伝える、つつましい音楽ばかりである。だがその中には確かに深いものが宿っている。これは傾聴すべき1枚である。(>>試聴できます)
【今日の一枚】
東京物語~斎藤高順ピアノ曲集
青木美樹(ピアノ)
発売:キングインターナショナル
電話:03・3945・2333
3000円
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2019年3月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。