選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
現代を代表する名指揮者サー・サイモン・ラトルは、長らく率いていたベルリン・フィル芸術監督をすでに辞任し、今はロンドン交響楽団(LSO)の音楽監督として活躍中である。かつてフルトヴェングラーやカラヤンが占めていた栄光ある“帝王”の座は、今や指揮者にとっての最終目標を決して意味しない。前任者アバドのときもそうだったが、むしろベルリン・フィルの“次”にこそ、重圧から解放された後の本音が発揮されるように思う。
いまのラトルは、そういう意味でとても面白い時期に来ている。
たとえばこの『ハイドン:想像上のオーケストラの旅』。オラトリオ「天地創造」「四季」や「十字架上の七つの言葉」、さらにはいくつかの交響曲からの抜粋を組み合わせた構成の何と楽しいことだろう。
LSOの演奏は、薄絹のような繊細さと、巨樹のような逞しさを併せ持ち、しかも洒脱で表情豊か。こんなに新鮮で自在なハイドンは空前である。
【今日の一枚】
『ハイドン:想像上のオーケストラの旅』
サー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団
2017年録音
発売/キングインターナショナル
電話:03・3945・2333
販売価格/3000円
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2018年12月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。