マツダ④ MAZDA_0006

マツダの「魂動デザイン」の根源となる象徴的な「デザイン キュー オブジェ」。

 

魂動デザインを世に送り出すに際して、マツダは陸上最速の動物チーターのしなやかな動きをいくつものカタチにするチャレンジから始めた。そして、その中から絞り込んだチーターの動きを抽象化したモデルを創造した。すべての魂動デザインを身にまとうクルマの根源となる「デザイン キュー オブジェ」だ。

――マツダ魂動デザインのもとになるオブジェとは何ですか。

「魂動デザインを展開してゆくための根源になるシンボルで、いわば私たちの“ご神体”です。これから3年先、5年先、10年先を見据えて、マツダのクルマはどう進化していったらいいか。その戦略を練るための規範のカタチをどうするか。そういう諸々のことを、ひとつの造形美に集約させたのが「デザイン キュー オブジェ」です。 
最初は“火”や“水”、あるいは“凛”や“妖”などをモチーフとして、それらを三次元のカタチにしてみたんです。それは単に感性だけの表現ではない。日本人のモノづくりの歴史を遡ってみて、平安時代の文化はどうか、縄文時代の文化はどうか。昔のあらゆる文化を掘り下げて考え、私たち日本人はどこにどういう美的感覚を持っているのかを検証してみました。そのためにモデラーたちも日本の文化の再発見に努力を重ねた。“わび・さび”も計算できないと、日本の文化は担っていけません。そういう積み重ねの中から、これしかないというシンボリックな造形美を見つけようとして、最終的には動物の生命感に行き着き、陸上最速のチーターの疾走するイメージだと決めました。そこからは本物のチーターのいろんな動きをつくり、それらを抽象化し、集約させていったのが魂動デザインのオブジェなのです」

――まさしく“ご神体”なのですね。

「それを基にデザインテーマをだして、だいたいのスケールモデル、そして精度の高いクレイモデルをつくって量産用のプロダクトモデルへと仕上げてゆく。その過程で関わる人も増えてゆくわけですが。各部署へは、このカタチがどんな効果をもつのか、5年先、10年先はどうかと、わかりやすく説明してゆくことで、みんなの共感を得ることができる。それも自発的に、全社的に共有していくことができるようになったのです」

――5年先、10年先のデザイン戦略で重要なのは何でしょうか。

「まずは社会の動向を知らなければいけませんね。その中で自分たちの訴求をどう進化させてゆくか。基本的には技術は進化します。それに素晴らしいスーツを着せるのがデザインです。カッコいいけど、ぜんぜん走らないでは意味がない。すごくエンジンがいいんだけど、デザインがダサいというのも魅力がない。形と機能が完全に合致してないと、ブランドが立ち行かない。ただ、こういう技術の進化があればデザインはここまで、という予測はできます。その上で、クルマ好きが本当に魅力を感じてくれるには、どんなボディがいいかということを、クレイモデラー全員が計算して考えるわけです」

マツダ⑤ MAZDA_0080

マツダのクレイモデラーであるデザイン本部 クレーモデルグループマネージャーの加藤賢二さん。

 

マツダ⑥ MAZDA_0136

同じく、マツダのデザイン本部 クレーモデルグループ チーフ・モデラーの西村貴文さん。

 

――最高のカタチを削るのに、モデラー同士はどう折り合いをつけるのですか。

「それはいろいろです。ここまでやったら、行き過ぎだねという時は、また戻したり。最終的にはデザイン本部のトップが判断しますが、魂動デザインをカタチにするためのクレイモデラーの試行錯誤はすごいものですよ。最初のイメージづくりをしたスケールモデルなどは、それこそ倉庫にいっぱいあります。もう捨てていいんじゃないといわれますが、つくった人間にとっては“少し時代が早かった”とか、やはり愛着があって捨てるにはしのびないものばかり。世にデビューを飾るのは、その中の1台ですからね」

マツダ⑦ MAZDA_0768

クレイモデラーが使う道具の数々。これらを使い分けながら0コンマ以下の精度でクレイを削り、スケールモデルを形づくっていく。

 

「マツダには30人のクレイモデラーがいて、精鋭ぞろいです。同じ会社でありながらも、お互いが切磋琢磨するライバルです。とはいえ、0コンマ以下の精度を求められる中で、ひたすら筋肉を使って全力で削っていたらすぐバテてしまいます。そこでどうしたか。筋力をつけるのではなく、呼吸法を変えることで持続力をつけました。彼らはそういった極意を身につけながら研鑽を積み、魂動デザインを具現化していく職人なのです」

  

取材・文/佐藤俊一 
撮影/小倉雄一郎

 

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