選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
現代のオペラ界で――とりわけ19世紀前半のイタリアで興隆したベルカント・オペラの分野において――20年以上スターの座に君臨するペルー出身のテノール歌手ファン・ディエゴ・フローレスが、ついにモーツァルトの録音を行なった。
新しいアルバム『モーツァルト:オペラ・アリア集』は、もぎたての果実のように、瑞々しい音楽が満喫できる1枚である。
たとえば「魔笛」のタミーノのアリア。まっすぐで誠実な、真情あふれる声からは、出会うべき理想の女性を見つけた男の心のときめきが、震えるように伝わってくる。超絶技巧だけではない、音楽の底力が試されるモーツァルトの作品で、ここまで見事な結果を出すとは、さすがフローレスである。
リッカルド・ミナージ指揮チューリヒ歌劇場ラ・シンティッラ管弦楽団の、ざくざくとした古楽的な響きと迫力も非常に効果的で、シンフォニックな意味でも大いに楽しめる。
【今日の一枚】
『モーツァルト:オペラ・アリア集』
ファン・ディエゴ・フローレス(テノール)
リッカルド・ミナージ指揮
チューリヒ歌劇場ラ・シンティッラ管弦楽団
2017年録音
発売/ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
http://www.sonymusicshop.jp
商品番号/SICC-30475
販売価格/2600円
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2018年5月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。