選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)

いま世界で最も騒がれている指揮界の風雲児で、西ウラルのペルミを本拠に活躍する1972年ギリシャ生まれのテオドール・クルレンツィスが、ついに『チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調 作品74「悲愴」』を出した。

ここには当たり前の音はひとつとしてない。よく知られている“いつもの”名曲は別の作品かと思うほどに響きの変貌を遂げている。これほど傷つき、苦悩し、活力に満ち、残酷で、正気を失った状態へと落ち込んでいく演奏があっただろうか。

クルレンツィスは解説文でこう書いている。

《遠くで聴こえていた叫び声が次第に近づいてきて、だんだんと大きな叫びになり、ついには部屋に入ってくるように。そして突如として私たちは理解する。この叫びは私たち自身から発していたのだということを》。

芸術とは、人を安心させ癒すばかりが役割ではない。不安のどん底へ叩き落とし、危険な真実をさらけ出すデモーニッシュな力がここには刻まれている。※試聴はこちらから

【今日の一枚】
『チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調 作品74「悲愴」』
テオドール・クルレンツィス指揮 ムジカエテルナ
2015年録音
発売/ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
商品番号/SICC-30426
販売価格/2600円
http://wmg.jp/ 

文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)

※この記事は『サライ』本誌2018年2月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。

 

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