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ガンで余命宣告を受けた中江兆民が覚悟をこめたことば【漱石と明治人のことば263】

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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「若し為す有りて且つ楽むに於ては、一年半是れ優に利用するに足らざるや」
--中江兆民

自由主義、民主主義思想を推進し、「東洋のルソー」といわれた思想家の中江兆民が「余命一年半」を告げられたのは、明治34年(1901)の春だった。前年の秋頃から喉に痛みがあり、気になって大阪の医師に診てもらったところ、喉頭ガンと診断され余命宣告を受けたのである。

兆民は弘化3年(1847)に土佐で生まれているから、このとき数え55歳だった。

気持ちを整えた兆民は、6月初旬から遺稿の執筆をはじめ8月3日に脱稿した。9月に博文館から刊行されたその著書には、『一年有半』という題名がつけられていた。

「一年とは余の為めには寿命の豊年なりと、此書題して一年有半と曰(い)ふは是れが為め也」

兆民はそう書き起こして題名の由来を説明し、

「一年半、諸君は短促なりと曰はん。余は極て悠久なりと曰ふ。若(も)し短と曰はんと欲せば、十年も短なり、五十年も短なり、百年も短なり。夫(そ)れ生時限り有りて死後限り無し」

とつづけ、掲出のことばをも綴っていくのである。

残り1年半という時間は短すぎると人はいうかもしれないが、自分は極めて長い時間だと思う。もし短いというなら、10年でも50年でも、100 年でも短いことに変わりはない。いずれにしろ生命には限りがあり、死後の時間は無限である。もし何かなすべき目的があり、また人生を楽しみたいと思うなら、残された1年半という時間をめいっぱい使えばいいではないか。

覚悟を決めて、そんな思いを綴ったのである。

兆民はその筆で、日本の中産階級以上の堕落ぶりを批判し、さらには立憲政友会や伊藤博文に代表される元老たちへも厳しいことばを浴びせる。この本は、死を目前にした兆民が自らの偽らざる心情を吐露したものとして、20万部のベストセラーとなった。

同年12月13日、絶息。1年半どころか、8か月余りで、兆民の命の炎は燃え尽きたのである。告別式当日、青山墓地の会葬場には、政界人や新聞記者など1000人余りがつめかけたという。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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