選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
1969年アイスランド生まれの実験音楽家ヨハン・ヨハンソンの新譜『オルフェ』に衝撃を受けた。
ヨハンソンは、今年公開予定のSF映画『ブレードランナー2029』の音楽を担当したことで、一躍世界的に注目されるようになった。この『オルフェ』は映画のサウンドトラック盤ではなく、すべて独立した楽曲であるが、その世界観はやはり近未来的で幻想風である。
静かなピアノを軸に、オーケストラや弦楽四重奏やオルガン、さらには合唱も加わる瞑想的な響き。随所に混入してくる謎めいたノイズや人の話し声が隠し味となり、危険で耽美的な雰囲気を醸している。(試聴はこちらから)
ヨハンソン自身の解説によれば、モーリス・ブランショやジャン・コクトーの文学を念頭においたオルフェオとエウリディーチェの神話の現代的再現であり、この世に対する死者の影響力についての音楽だという。
確かにこれは闇のような音楽だ。だがこの孤独感の何と心地よいことだろう。
【今日の一枚】
『オルフェ』
ヨハン・ヨハンソン(ピアノ、エレクトロニクス、パイプオルガン、電子オルガン)他
録音/2009〜16年
発売/ユニバーサル・ミュージック
http://www.universal-music.co.jp
商品番号/UCCH-1043
販売価格/2500円
選評/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ局「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金曜 18:00~22:00放送)。近著に『ルネ・マルタン プロデュースの極意』(アルテスパブリッシング)がある。
※この記事は『サライ』本誌2017年7月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。