文/浅見祥子

『ソング・サング・ブルー』
(配給:ギャガ ユニバーサル映画)
監督・脚本/クレイグ・ブリュワー
出演/ヒュー・ジャックマン、ケイト・ハドソン、マイケル・インペリオリ、エラ・アンダーソン、キング・プリンセス、ハドソン・ヘンズリー
4/17~TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
(C)2025 Focus Features LLC. All rights reserved.

アメリカ、ミルウォーキー。マイク・サルディーナ(ヒュー・ジャックマン)の人生は、見るからに冴えない。かつては本気でミュージシャンを志すも、今彼が立つのは遊園地の一角、しがない歌まねステージ。しかもアルコール依存症に苦しんだ過去を持ち、心臓にも不安がありそうで。車の整備工を副業にしながら、娘とふたりでトレーラー暮らしをしている。

そんなマイクが出会ったのは、美容師をしながら女手ひとつで家族を養い、歌まねミュージシャンとしてステージも務めるクレア(ケイト・ハドソン)。マイクはまず、彼女の軽やかな歌声に心惹かれる。すぐに意気投合した二人は、ニール・ダイアモンドのトリビュートバンドを組むことに。自宅ガレージでの練習からスタートしたバンド「ライトニング&サンダー」はあれよあれよで人気を獲得。すべてが嘘みたいに上手く回り出したころ、想像を超えた悲劇が二人を襲う――。

映画『ソング・サング・ブルー』は実話を元にしている。だから、いやいやそんな展開アリか!? とうっかり思ってしまうことがあっても、それは完全にアリ。だって、本当にあったことだから。展開のための強引な設定ではないのだから。問題は、そうやって観客の物語への集中を途切れさせないほどの説得力。この映画で言うならマイクとクレア、地に足をつけて労働する生活者でありながらステージ上で歌えばキラキラと輝くスター性を放つ。そんな二人を確かな演技力で構築する必要がある。ヒュー・ジャックマンとケイト・ハドソンに与えられたのは、そんな重責。

マイク役のヒュー・ジャックマンと、クレア役のケイト・ハドソン。二人の、リアリティたっぷりな下着姿(?)に注目。

ヒュー・ジャックマンが歌えるスターであることは、ジャン・バルジャンを演じた映画『レ・ミゼラブル』でも、シルクハットがお似合いだった映画『グレイテスト・ショーマン』でも明らか。とにかくこの人は、すっと立って歌う姿がステキ。ブロードウェイミュージカルでも実力を認められた人なのだから当然とも言えるが、ステージ映えすることこの上ない。ただマイクを演じるには、そのスター性が足かせになる可能性もあった。立っているだけで輝きを放つハリウッドスターが、労働者階級の冴えない中年男に見えるのか? と。ところがビックリ、この映画のヒューはそんなマイクそのもの。あまりに自然に、無精ひげでさほどイケてなくて、脂ぎっても見える初老男。それがステージでは一転してその歌声に心をつかまれるパワーを放ち、観客は、そんなマイクが信じられない幸運と不幸にぶん回される姿にハラハラしながらも応援したくなる。つまりは完璧。

驚いたのはケイト・ハドソンだった。かつて青春映画やコミカルなラブ・ストーリーの中心で観る者をハッとさせる笑顔を弾けさせていた彼女も、いまや立派な中年女性。クレアとして映画に登場したとき、ステージでの出番を前に黒髪のくるくるパーマなウィッグを被っていたせいもあって、一瞬それが誰かわからないかもしれない。けれどその華やかで堂々とした歌声、歌うことを心底楽しむようにくるくると変わる表情で観客を惹きつけていく。うそっ、これケイト・ハドソン!? その歌声に聞き入ってしまう。年齢相応な雰囲気ながら、あの輝く笑顔は若いころと変わらずにとっておき。観客はマイク同様、クレアに恋をすることになる。

だからその後でマイクとクレアが意気投合して恋に落ち、バンドを組み、成功の道を駆け上がるストーリーには心が踊る。ああよかったよね、苦労者のふたりだけど、ツキに見放された! と心折れずにコツコツとした努力を重ねていると、こんなにいいことあるんだね……と素直に感情移入していると、とんでもないことが起きる。そこからが、二人の本当のストーリー。もしフィクションなら、とんでもない! と思うような唐突な転調だけれど、そういうことが時に起こってしまうのが人生でもあるのだろう。

ケイト・ハドソンが、こんなに歌が上手いなんて!

「これは労働者階級のおとぎ話だ」とヒュー・ジャックマンは言う。そのおとぎ話を彩るのは、ニール・ダイアモンドのポップソング。「SWEET CAROLINE」「HOLLY HOLY」、どれも心に響くステキな曲で、耳なじみがなくてもすぐ一緒に口ずさみたくなる。まさにそんな、王道のポップソング。そして、それを歌うヒュー・ジャックマンとケイト・ハドソンは、本当に息がピッタリ。この二人が恋に落ちるのはあまりにナチュラルに思えるし、いつでも揺るぎないヒューの歌声と、ちょっとハスキーで聴いていて心が弾むケイトのそれはあまりに相性がいい。ケイトは後半の熱演もあって、この役でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた。

ニール・ダイアモンドのポップソング、ついてない人生を送る中年男女が出会うストーリー。王道っていいな……、とただの王道では終わらない人生というものについて考える。それでいて、自分だって! と信じられるような、前向きなパワーをきっともらえることだろう。

【映画深堀りネタ帳】

サブスク時代、『ソング・サング・ブルー』をより深く味わうための映画ネタを紹介。

『あの頃ペニー・レインと』(2000年)

「ローリング・ストーン」誌の記者だったキャメロン・クロウ監督が、自身の経験を元にした青春映画。26年前(!)のケイト・ハドソンが、とっておきの笑顔を弾けさせている。時が経つのは早いものよ……。

文/浅見祥子(映画ライター)
雑誌「BE-PAL」(小学館)、「田舎暮らしの本」(宝島社)、web「大人のおしゃれ手帖」(宝島社)、「シネマトゥデイ」などで映画レビュー、俳優&監督インタビューを執筆。また「芸能マネージャーが自分の半生をつぶやいてみたら」などの書籍ほか、赤楚衛二「A」、菅田将暉「着服史」、小関裕太「Y」、藤原大祐「FeaT.」、菅井友香「たびすがい」(すべてワニブックス)などでインタビューを担当。

 

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