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“運命の出会い”に導かれ、その日暮らしのフリーターがオペラ歌手の道へ

放送中のNHK連続テレビ小説「らんまん」では現在、小学校中退の万太郎が高名な田邊教授に認められ、特別に東大植物学教室に通うことが許されるものの、学友である東大生たちとなかなか馴染めず、人間関係に頭を抱えています。特別な才能を持つ人は時に周囲の人々を脅かす存在になってしまうのも仕方のないことなのでしょうか。

今回、ご紹介する『テノール! 人生はハーモニー』の主人公アントワーヌもまさにそんな運命の出会いから、誰も歩んだことのないルートでオペラ歌手への道を歩むことになっていきます。

――寿司店の出前のアルバイトをしながら、会計学を学んでいるアントワーヌはラップが趣味で、その日暮らしのフリーター。団地に住み、一緒に暮らす兄は違法な決闘ボクサーをしながら、弟の学費を出している。ある日、オペラ座に寿司のデリバリーで訪れたアントワーヌは、ひょんなことからオペラ教師マリーに歌の才能を見初められる。最初こそ興味のなかったアントワーヌだったが、初めて触れるオペラの音楽に次第に魅了されていく。マリーは自分が指導するオペラ座のクラスに彼を迎え入れようとするが、周りの生徒は家に劇場があるような、「超」がつくようなお金持ちばかり。アントワーヌとは住む世界がまるで違っていた――

主演は、大人気オーディション番組で国民的ブレイクを果たしたビートボクサー MB14

アントワーヌを演じているのはオーディション番組で国民的ブレイクを果たしたビートボクサー、MB14。ビートボクサーとはヒューマンビートボックス楽器を使わず口から発する音で演奏するアーティストのことです。2016年の『ザ・ヴォイス・フランス』シーズン5でカリスマ的才能を発揮したMB14を見た本作の監督とプロデューサーが彼の役者としての才能を見出し、彼のフェイスブックにメッセージを送ったことで、この絶妙なキャスティングが決まりました。演技はもちろん、オペラも未経験だったMB14。アントワーヌが未知の世界に飛び込み、才能が開花していく様子は彼自身の姿と重なります。

元々歌の素養があったとはいえ、2か月の特訓で、実際にオペラのパフォーマンスができるようなったMB14。アントワーヌ同様、天賦の才に恵まれていると言っていいでしょう。 劇中では本人役で出演している世界的なテノール歌手のロベルト・アラーニャと一緒にヴェルディ作曲のオペラ「リゴレット」の「女心の歌」を歌い上げています。

「蝶々夫人」「椿姫」「トゥーランドット」……作中で堪能できるオペラの名曲の数々

曲のタイトルだけを聞くと、気後れしてしまうかもしれませんが、アントワーヌたちが歌うのは実によく知られたオペラの楽曲ばかりです。マリア・カラスの十八番として知られる、プッチーニ作曲の「蝶々夫人」劇中歌「ある晴れた日に」。イントロを聴いただけで、すぐに体を揺らしたくなる「椿姫」の「乾杯の歌」。そして、三大テノールの一人、ルチアーノ・パヴァロッティが世界的に有名にした「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」。

ラッパーの2PACを敬愛する、ラップしか聴いていなかったアントワーヌですら思わず魅き込まれてしまう名曲の数々。彼が夢中になるのも納得です。それでも才能があっても、大好きでも、どうにもならないこともあります。果たしてマリーから与えられたチャンスをアントワーヌはものにできるのでしょうか。

数年かけてオペラ座を説得し、撮影が実現! 絢爛豪華な撮影場所にも注目

オペラをよく知らなくても楽しめる、この映画のもう一つの大きな見どころが、舞台となるパリにあるオペラ座ガルニエ宮です。ナポレオンの甥にあたるナポレオン三世がシャルル・ガルニエに設計させたことからガルニエ宮とも呼ばれるパリ・オペラ座。そのままズバリ、「オペラ座の怪人」の舞台でもある有名な劇場です。

本作ではそのオペラ座のあらゆるところで撮影を敢行。外観、内観、夜景と余すことなく、その魅力を映し出します。重厚な大理石造りの大階段、宮殿のように壮麗な大広間やロタンダ(円形建物)。観客席から見える有名なシャガールの天井画。バルコニーから臨む、ルーヴル美術館の方へとまっすぐ伸びるオペラ大通りのライトアップされた夜景。全てがため息の出る美しさです。アントワーヌとライバルが2体の黄金の彫像(外から見ると天守の屋根を飾るしゃちほこのように見える部分)に登り、頂上から街並みを見下ろす場面もあります。なかでも、マリーがアントワーヌたちに歌のレッスンを行なう、絢爛豪華なグラン・フォワイエはギリギリまで撮影許可が下りなかったそうで、監督たちは何年も粘って、オペラ座を説得したのだとか。まさか200年以上後のこんな状況をナポレオン三世は想像していたでしょうか。

移民の家系に生まれたラッパーの青年が寿司のデリバリーで大階段を駆け上がり、ましてやグラン・フォワイエで歌を歌い、やがて舞台に立とうなんて、なんとも痛快な話です。

オペラ未経験者にもぜひ好奇心を持って楽しんでほしい、オペラの世界

オペラは興味があるけど敷居が高いかなと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。もしかしたら、この映画が好奇心の扉を開いてくれるかも。アントワーヌが先入観を捨てて、垣根を乗り越えたように、そこにはまだ見ぬ新しい世界が広がっているかもしれません。


『テノール! 人生はハーモニー』
6月9日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
(c) 2021 FIRSTEP – DARKA MOVIES – STUDIOCANAL – C8 FILMS
公式サイト:gaga.ne.jp/TENOR
監督:クロード・ジディ・ジュニア 出演: ミシェル・ラロック(『100歳の少年と12通の手紙』、『メルシィ!人生』)、MB14、ロベルト・アラーニャ
配給:ギャガ

文/高山亜紀


 


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