物語は、心に蒔かれた種である。幼いある日に読んだ漫画の小さなフレーズが思いもかけずに蘇えってくることがある。生きてきた道を振り返ると、いくつもの岐路で物語の断片たちは、標となり灯火となって私たちを導いてきた。人生を変えた名作漫画に、再び出会う。

1952年生まれ。東京外国語大学英米語学科卒。ゴダイゴとしても活躍。ソロデビュー50周年を記念したアルバムBOX(4枚組CD)『GLORY!』が好評発売中。
「“できないことは何もない”という僕の人生哲学は『ちかいの魔球』から来ています
タケカワユキヒデさんはソロデビューして今年で50周年だが、デビューと同時期に始めた漫画雑誌の蒐集が、すでに1万冊を超えたという。タケカワさんいわく、映画も小説も「イメージ(絵)と言葉で作られている物語」であり、「すべて漫画」。漫画は、物語の味わい方を教えてくれるものであり、人生に影響を与え続けている。
特にこの4作品は、今のタケカワさんを形作ったのだという。
「『ちかいの魔球』の登場人物は、現実味があって、魅力があって、自分を投影できた。“できないことは何もない”という僕の人生哲学は、ここから来ています」
タケカワさんは小さい頃からアメリカンポップスに憧(あこが)れたというが、「アメリカへの憧れ」を抱くきっかけになったのが『スポーツマン金太郎』だ。
「主人公の金太郎と桃太郎が、ドジャースと巨人のフロリダ(ベロ・ビーチ)合同キャンプに参加するんです。で、オレンジの木に登ってオレンジをむしゃむしゃ食べるんですけど、これがうまそうでね。アメリカそのものへの憧れは、ここからですよ」
ゴダイゴの発想の元
10歳の頃に読んで、そのときの「戦慄」が忘れられないのが、手塚治虫の『ナンバー7(セブン)』だ。
「異星人のひとりが、死にそうな地球人を助けるために自分の命を犠牲にするんです。どうして他星人のために命を捧げるのか。自分はできるのかと考えると恐ろしかった。この答えの出ない自己犠牲は今でも解消できないでいます」
タケカワさんは、多国籍のバンド・ゴダイゴを結成するが、同様のことを夢想していた。
「中学生の頃、人種の違うメンバーでバンドを作ったらどんなにすごいだろうと夢想していたのですが、小学生で読んだ、世界中の仲間と冒険する『冒険日本号』の影響でしょうね」

『冒険日本号』小沢さとる著
主人公の少年は、莫大な遺産で宇宙も水中も航行できる日本号を造り、世界中の友だち100人と冒険する。月刊漫画雑誌『冒険王』で連載(1964〜66年)。漫画家小沢さとるの本業はエンジニアで、漫画は副業だった。
サン出版 ※絶版
『ちかいの魔球』福本和也 原作 ちばてつや 漫画
1961〜62年に『週刊少年マガジン』で連載。「小学2年生の頃、連載が始まり、とにかく夢中になった」とタケカワさん。この作品との出会いが、「漫画を読み続けることを生涯の誓い」としたのだという。
講談社漫画文庫(電話:03・5395・3608) ※品切れ
『スポーツマン金太郎〔完全版〕』寺田ヒロオ著
『週刊少年サンデー』創刊号(1959年)から5年にわたり連載された野球漫画の嚆矢 。金太郎と桃太郎がそれぞれ巨人、西鉄に入団し、王や長嶋など実在の選手と対決する。同作は第1回講談社児童まんが賞を受賞。
パンローリング(電話:03・5386・7396) 1980円
『ナンバー7 手塚治虫文庫全集』手塚治虫著
冷凍睡眠による100年の眠りから目覚めた少年・七郎が、地球侵略を企む異星人と戦う地球防衛隊特別攻撃班に入って活躍するSF漫画。1961〜63年に月刊少年漫画雑誌『日の丸』に連載された。(C)手塚プロダクション
講談社(電話:03・5395・3608) 913円
取材・文/角山祥道 撮影/宮地 工
※サライ2026年1月号掲載の記事です。

特別付録『ノリタケ製 2026ドラえもん ミニ・イヤープレート』











