文・石川真禧照(自動車生活探険家)

自動車が発明された19世紀後半、自動車は使いやすく、実用的な乗り物になることが主な目的で進化をしていった。その後、自動車が普及してくると、実用性だけでなく趣味的要素を求める人たちが出てきた。それは主に富豪や貴族たちだった。
ある貴族はスピードを求め、ある富豪は豪華さを求めた。


1920年代に入ると、自動車は製造メーカーだけでなく、一部の顧客たちのために市販の自動車を改造する会社がでてきた。そのなかに豪華さを求める人たちのために内装を手がける人たちがいた。それは主に馬車の時代に、富豪や貴族のための馬車を製作していた人たちだった。
高級スポーツカーや高性能スポーツカーの顧客は、メーカーが製造した車台に、自分専用のボディをお気に入りの車体製造者に架装させ、乗り回した。車体製造者はコーチビルダーと呼ばれていた。





マリナーもこうしたコーチビルダーのひとつで、16世紀から英国で馬具の製造を手がけ、やがて馬車にも手を拡げた。その実績に目をつけた英国の貴族や富豪が、自らの自動車に専用の車体を架装することを依頼した。マリナーは20世紀初めに自動車の車体製造に進出した。そこで数々の素晴らしい内装の高級車を発表したことで、注目を集め、20世紀半ばにベントレーの専属部門になった。エリザベス二世の御料車もマリナーの手によるものだった。
余談だが、趣味の自動車の世界では「コンクール・ド・エレガンス」というイベントが世界各地で開催されているが、これも自分たちの車を見せて、その美しさや豪華さを自慢するところから始まっている。



近年のマリナーは、ベントレーの生産車を中心に、顧客からの要請で”世界に1台”しかないベントレーを製作しているだけでなく、標準車をベースに独自の内装のベントレーを造り出している。



一度だけ、マリナーの工房を尋ねたことがある。そこでは自動車の内装を製造するとはいっても、革職人や木工職人だけでなく、シートの縫い目専用のトリム職人、家具職人、組立職人、さらに電子機器の専門家といった職人の集団が高度な技能を駆使しながら、一台のベントレーを丁寧に手造りしていた。
一見、一枚の木板のように見えるインストルメントパネルだったが、実は透けて見えるほど薄く削った紙のような板を何枚も重ねて、微妙な曲面を造り出している工程を目のあたりにした。そこには親子3代に渡って務めているという若者も作業していた。


今回、コンチネンタルGTCマリナーを紹介するにあたり、実車の試乗、撮影に出掛ける前に、その内装の素晴らしさに、しばらく見入ってしまった。その内装は、きらびやかな豪華さよりも、派手ではあるが、これ見よがしの派手さではなく、質が高く、品のある素材をていねいに組み上げた、仕上げの見事さを感じさせた。本当の高級さを知っているベントレーの顧客には、これ位の品質を提供しないと納得してくれないのだろう。





それは動力性能にも表れている。ベントレースポーツといえば大排気量で、力で押していくイメージで、ル・マン24時間レースで何回も優勝しているスポーツカーメーカーだったが、最新のコンチネンタルGTCマリナーは、違う。速いだけでなく、先進技術の技能集団は、最新の電気技術をこの第4世代のコンチネンタルGTCに取り入れている。
自宅でも充電できるプラグインハイブリッドを導入したことで、約80kmをモーターの力で走行できる。日常の足として気軽に乗り回しても80kmも走ることができれば、ほとんどモーター=EVとして使うことができる。


もちろん、「スポーツ」モードを選択すれば、即座にV型8気筒4.0Lのツインターボエンジンが野太い排気音を発しながら、ベントレースポーツの伝統の走りを楽しませてくれる。
歴史と環境に裏付けられた華やかな豪華さを車の内装に求めるならマリナーが手がけたベントレーに乗ってみることだ。その気になればル・マンウイナーの速さを体験することもできる。

ベントレー/コンチネンタル GTC マリナー
| 全長×全幅×全高 | 4895×2187×1392mm |
| ホイールベース | 2851mm |
| 車両重量 | 2636kg |
| エンジン/モーター | V型8気筒ガソリンツインターボ 3996cc/交流同期 |
| 最高出力 | 600ps/6000rpm/190ps |
| 最大トルク | 800Nm/2000~4500rpm/450Nm |
| 駆動形式 | アクティブ四輪駆動 |
| 一充電走行距離 | 859km+81km(WLTC) |
| 使用燃料・容量 /電池容量 | 無鉛ハイオクガソリン 70L/ 25.9kWh |
| ミッション形式 | 8速デュアルクラッチ |
| サスペンション形式 | 前:ダブルウィッシュボーン/後:マルチリンク |
| ブレーキ形式 | 前:ベンチレーテッドディスク/後:ベンチレーテッドディスク |
| 乗員定員 | 4名 |
| 車両価格(税込) | 4901万円 |
| 問い合わせ先 | 0120-97-7797 ベントレーコール |

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博





