文・石川真禧照(自動車生活探険家)

V8でもモーターでも、全域でハンドル操作は重め。乗り心地は「B」モードではフラット感がある。動力性能は0→100km/h加速は実測で4秒台前半。モーター走行の無音もよいが、V8サウンドも魅力的。

自動車が発明された19世紀後半、自動車は使いやすく、実用的な乗り物になることが主な目的で進化をしていった。その後、自動車が普及してくると、実用性だけでなく趣味的要素を求める人たちが出てきた。それは主に富豪や貴族たちだった。

ある貴族はスピードを求め、ある富豪は豪華さを求めた。

第4世代のコンチネンタルGTCのフロントスタイル。ヘッドライトが片側1灯の丸目というのは1950年代のコンチネンタル以来。
楕円形のテールランプは上下が細くなった。トランク開口部が狭めなのがわかる。

1920年代に入ると、自動車は製造メーカーだけでなく、一部の顧客たちのために市販の自動車を改造する会社がでてきた。そのなかに豪華さを求める人たちのために内装を手がける人たちがいた。それは主に馬車の時代に、富豪や貴族のための馬車を製作していた人たちだった。

高級スポーツカーや高性能スポーツカーの顧客は、メーカーが製造した車台に、自分専用のボディをお気に入りの車体製造者に架装させ、乗り回した。車体製造者はコーチビルダーと呼ばれていた。

ホロ(ソフトトップ)を降ろした状態。ホロはトランク部の上のほうに格納されているのでウエストラインはスッキリ。
ホロを閉じた状態。ソフトトップの素材はファブリックだが何重にもなっており、耐候性は高い。
スタイリングも変わったが、シャーシも新にエアスプリング+デュアルバブルダンパーを組み合わせ、操縦安定性はさらに向上した。
ベントレーの主力モデルにシングルヘッドライトが採用されたのは1950年代以来。上部を貫く、水平のデイタイムランニングライトが特徴的。
コンバーチブルがクーペモデルと同時に発表されたのも史上初めてのこと。ホロは15秒で時速50キロ以下なら自動開閉できる。

マリナーもこうしたコーチビルダーのひとつで、16世紀から英国で馬具の製造を手がけ、やがて馬車にも手を拡げた。その実績に目をつけた英国の貴族や富豪が、自らの自動車に専用の車体を架装することを依頼した。マリナーは20世紀初めに自動車の車体製造に進出した。そこで数々の素晴らしい内装の高級車を発表したことで、注目を集め、20世紀半ばにベントレーの専属部門になった。エリザベス二世の御料車もマリナーの手によるものだった。

余談だが、趣味の自動車の世界では「コンクール・ド・エレガンス」というイベントが世界各地で開催されているが、これも自分たちの車を見せて、その美しさや豪華さを自慢するところから始まっている。

精巧に組み上げられたインストルメントパネル。センターパネルは石を薄さ1mm程度に削り、張り合わされている。
やや高めにセットするとボンネットが見える前席。いかにも品質の高そうな内装は、マリナービスポークインテリアで、約60万円のオプション。
後席の着座もやや高めだが、ホロを閉じた状態でも身長160cmまでなら耐えられる。

近年のマリナーは、ベントレーの生産車を中心に、顧客からの要請で”世界に1台”しかないベントレーを製作しているだけでなく、標準車をベースに独自の内装のベントレーを造り出している。

マリナーは16世紀から馬具を製造していた。のちに英国の郵政公社の依頼で馬車の内装などを手がけ、やがて車の内装も行うようになり、1950年代にベントレーの協力会社となった。エリザベス二世の御料車を手がけるなど、名声を得ている。
もちろん手縫い。
ドアを開けると足元にも「MULLINER」の文字が。

一度だけ、マリナーの工房を尋ねたことがある。そこでは自動車の内装を製造するとはいっても、革職人や木工職人だけでなく、シートの縫い目専用のトリム職人、家具職人、組立職人、さらに電子機器の専門家といった職人の集団が高度な技能を駆使しながら、一台のベントレーを丁寧に手造りしていた。

一見、一枚の木板のように見えるインストルメントパネルだったが、実は透けて見えるほど薄く削った紙のような板を何枚も重ねて、微妙な曲面を造り出している工程を目のあたりにした。そこには親子3代に渡って務めているという若者も作業していた。

シフトレバーやドライダイナミクスダイヤル、シート空調などがセンターパネルにまとめられている。
インストルメントパネルの左右端と、センターコンソール上部にある丸型の空気吹き出し口。この形状と位置と作動方法は1930年代から変わっていない。当時から歴代のベントレーに乗り継いでいる顧客をまごつかせないためという。

今回、コンチネンタルGTCマリナーを紹介するにあたり、実車の試乗、撮影に出掛ける前に、その内装の素晴らしさに、しばらく見入ってしまった。その内装は、きらびやかな豪華さよりも、派手ではあるが、これ見よがしの派手さではなく、質が高く、品のある素材をていねいに組み上げた、仕上げの見事さを感じさせた。本当の高級さを知っているベントレーの顧客には、これ位の品質を提供しないと納得してくれないのだろう。

デジタル表示が全盛の時代だが、アナログのメーターを装備している。メーター内部の装飾も美しい。
インパネ中央には3個のアナログメーターが並んでいる。
中央部のメーターはスイッチ操作で、計器面が反転し、EV走行状態や走行モード(ドライブダイナミクス)の切り換えができる。
さらにナビゲーション画面も反転して表示される。
ホロを開けた状態のトランクスペースは狭い。ここに充電ケーブルのバックが入ると、大きな荷物は入らない。

それは動力性能にも表れている。ベントレースポーツといえば大排気量で、力で押していくイメージで、ル・マン24時間レースで何回も優勝しているスポーツカーメーカーだったが、最新のコンチネンタルGTCマリナーは、違う。速いだけでなく、先進技術の技能集団は、最新の電気技術をこの第4世代のコンチネンタルGTCに取り入れている。

自宅でも充電できるプラグインハイブリッドを導入したことで、約80kmをモーターの力で走行できる。日常の足として気軽に乗り回しても80kmも走ることができれば、ほとんどモーター=EVとして使うことができる。

V8、4.0Lガソリンエンジンと、190psのモーターにはカバーがかけられ、本体は見えない。
充電口は車体左後方にある。充電は200V交流のみで、急速充電はできない。ガソリンでも走行できるプラグインハイブリッドに、急速充電は必要ない。という考え方だ。

もちろん、「スポーツ」モードを選択すれば、即座にV型8気筒4.0Lのツインターボエンジンが野太い排気音を発しながら、ベントレースポーツの伝統の走りを楽しませてくれる。

歴史と環境に裏付けられた華やかな豪華さを車の内装に求めるならマリナーが手がけたベントレーに乗ってみることだ。その気になればル・マンウイナーの速さを体験することもできる。

ホイールは22インチ径の大径アルミホイール。中央のBマークはホイールの位置に関係なく正立しているのが特徴。

ベントレー/コンチネンタル GTC マリナー

全長×全幅×全高4895×2187×1392mm
ホイールベース2851mm
車両重量2636kg
エンジン/モーターV型8気筒ガソリンツインターボ 3996cc/交流同期
最高出力600ps/6000rpm/190ps
最大トルク800Nm/2000~4500rpm/450Nm
駆動形式アクティブ四輪駆動
一充電走行距離859km+81km(WLTC)   
使用燃料・容量 /電池容量               無鉛ハイオクガソリン 70L/ 25.9kWh
ミッション形式8速デュアルクラッチ
サスペンション形式前:ダブルウィッシュボーン/後:マルチリンク
ブレーキ形式前:ベンチレーテッドディスク/後:ベンチレーテッドディスク   
乗員定員4名
車両価格(税込)4901万円
問い合わせ先0120-97-7797  ベントレーコール 

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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