私たちがふだん何気なく使っていることばには、どこか遠くの誰かの物語がひそんでいることがあります。ことばの歴史や背景を知ると、聞き慣れた表現がいつもとは少し違う表情を見せてくれるかもしれません。
さて、今回は “McDonald”(マクドナルド)の先頭についている“Mc” についてみていきましょう。
Paul McCartney (ポール・マッカートニー)やMacArthur (マッカーサー)、 “MacBook” など、“Mc” だけでなく、 “Mac”の表記もあるように、この接頭語はどんな意味を持つのでしょうか?

“McDonald” の “Mc” はどこからきた?
世界中で親しまれているハンバーガーチェーンの McDonald(マクドナルド)。そして、Apple社のパソコン名 Macintosh(マッキントッシュ)。
これらの名前に共通する “Mc” や “Mac” は、もともとアイルランド語やゲール語に由来し、「〜の息子」や「〜の子孫」 を意味する言葉でした。
つまり、
McDonald は (ドナルドの息子)
Macintosh は ( イントッシュ の息子)
という意味があるのです。

「〜の息子」の歴史
英語には、このように「〜の息子」ということばを名前に残している姓がたくさんあります。たとえば「キング・オブ・ポップ」と呼ばれたマイケル・ジャクソン(Michael Jackson, 1958–2009)のJackson は、「Jackの息子」という意味です。
また、アメリカ製の大型オートバイクメーカーのHarley-DavidsonのDavidson は「Davidの息子」。また、『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー役の俳優、Emma Watson(エマ・ワトソン)のファーストネームにも ‘son’ がありますね。
女性であっても “son” が使われているのは、英語の姓に見られるおもしろい特徴のひとつです。

では、「〜の娘」を表す名字は?
「〜の息子」という意味をもつ名字は、いまの英語圏でも多く残っています。一方で、「〜の娘」を表す名字は、ほとんど見かけません。古英語には “-dohter” という語尾があったものの、長い時代の流れの中で少しずつ使われなくなり、姿を消していったようです。
しかし、アイスランドには今もその名残が息づいています。父や母の名前に 「-son(息子)」 や 「-dóttir(娘)」 をつける伝統が受け継がれているのです。
たとえば、アイスランド史上最年少の現首相、クリストルン・ミョットル・フロスタドッティル(Kristrún Mjöll Frostadóttir)。彼女の名字 Frostadóttir は、「Frostiの娘」という意味をもちます。
また、世界的アーティストである ビョーク(Björk Guðmundsdóttir) の名字 Guðmundsdóttir も、「Guðmund の娘」を意味しています。
このように、アイスランドでは親の名を受け継いだ名字が、今も大切に守られているのです。
最後に
アメリカの詩人であり、ミュージシャン、作家としても活躍するジョイ・ハージョは、2019年から2022年にかけてアメリカ合衆国の第23代 U.S. Poet Laureate(桂冠詩人)を務めました。ネイティブ・アメリカンとして史上初の就任で、大きな注目を集めました。
彼女の作品は、詩や音楽、物語を通して、先住民の精神性や自然との結びつき、歴史、そして記憶を描き出しています。ここでは、その代表作のひとつである「Remember」をご紹介します。
Remember
by Joy HarjoRemember the sky that you were born under,
出典:Joy Harjo, “Remember.” In She Had Some Horses, ©1983.
know each of the star’s stories.
Remember the moon, know who she is.
Remember the sun’s birth at dawn, that is the strongest point of time.
Remember sundown and the giving away to night.
Remember your birth, how your mother struggled
to give you form and breath. You are evidence of her life, and her mother’s, and hers.
Remember your father. He is your life, also.
Remember the earth whose skin you are: red earth, black earth, yellow earth, white earth, brown earth, we are earth.
Remember the plants, trees, animal life who all have their tribes, their families, their histories, too.
Talk to them, listen to them. They are alive poems.
Remember the wind. Remember her voice.
She knows the origin of this universe.
Remember you are all people and all people are you.
Remember you are this universe and this universe is you.
Remember all is in motion, is growing, is you.
Remember language comes from this.
Remember the dance language is, that life is.
Remember.
Used by permission of W. W. Norton & Company, Inc.#BNStorytime: Joy Harjo reads Remember
『思い出しなさい』
訳:池上カノ
ジョイ・ハージョ
あなたが生まれ落ちたときの空を思い出して
ひとつひとつの星の物語を知りなさい
月を思い出して、彼女がどんな存在なのか
心に止めておきなさい
夜明けの太陽の誕生、それは
もっとも力強い瞬間であることを思い出しなさい
そして日が沈むとき、 世界は夜へとゆだねられる
あなたが生まれたときを思い出しなさい
母があなたに形と呼吸を与えるために、どれほど力を尽くしたか
あなたは、彼女の人生の証であり
その母の、さらにその母たちの証でもある
あなたの父を思い出しなさい
彼もまた、あなたの命
あなたの皮膚である大地を思い出しなさい
赤い大地、黒い大地、黄色い大地、白い大地、茶色い大地
私たちは大地なのだ
植物を、樹々を、動物たちを思い出しなさい
彼らにも種族があり、家族があり、歴史がある
話しかけ、耳を傾けなさい
彼らは生きている詩なのだから
風を思い出しなさい
彼女の声を思い出しなさい
彼女はこの宇宙のはじまりを知っている
あなたはすべての人であり
すべての人はあなたであることを思い出しなさい
あなたはこの宇宙であり
この宇宙はあなたであることを思い出しなさい
すべては動き、成長し、すべてあなた自身であることを思い出しなさいことばはそこから生まれてくることを思い出しなさい
思い出しなさい
踊りがひとつのことばであるように
命がひとつのことばであることを
思い出しなさい
ジョイ・ハージョの詩を読むと、私たちがどれほど多くの存在に支えられて生きてきたのかを、思い起こさせてくれるように感じます。
そして、“Mc” や “Mac” がもともと「〜の息子」「〜の子孫」を意味していたように、私たちは、自然の大きなめぐみや、先人たちの願いを受け継ぎながら、生かされているのかもしれません。
次回もお楽しみに。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com












